「あーあ、結局言えなかったなぁー」

エレベーターのドアがしまったのを確認すると、振っていた手を止め、ズルズルと座り込んだ。

今日が最後のチャンスだったのに。

私、藍沢涼音(あいざわすずね)は幼なじみの木下理央(きのしたりお)に長年片思いしていた。そして今日、高校の卒業の日、ラストチャンスを逃した。



「と、東京?」

放課後のファミレス、私の大きな声が響いた。いつも通り2人で受験勉強をしていると、理央が解いている問題集の表紙が見えた。まさかの東京にある難関大学の名前に、目を見開いた。

「理央?本当に東京行っちゃうの?」

集中力が一気に切れた私は、ジュースをズズっとすする。

「受かったらの話だろ。もしかして俺と離れるの寂しいの?」

理央がこてんと首を傾げると、サラサラの黒髪が揺れて、白い肌が髪の間から見える。

「そりゃ寂しいよ。だってずっと一緒にいた幼なじみか東京行っちゃうんだよ?!」

「へぇ、寂しいんだー」

ニヤリと口角を上げて理央はこっちを見た。

「理央は寂しくないの?」

ずいーっと理央に顔を近づけると、
「寂しいかもね」
と、そっぽを向いた。

相変わらず素直じゃない理央に笑みがこぼれながらも、私の頭の中はパニックだ。

頭のいい理央と同じ大学に行けないことはちゃんとわかっていた。

だけど、同じマンションに住んでいるんだから別々の大学に行ったとしても、ずっと一緒にいられると思っていた。ずっと一緒にいれば、いつかキモチを伝えられるようなタイミングが来ると思っていた。

なのに、だ。

どーしよ。このままだと理央、いなくなっちゃう。

東京なんかに行ってしまえば、会いに行くだけで新幹線で片道1時間半。せいぜい月に1回会えたらいいほうだろう。

それに、東京なんて可愛いの子が星の数ほどいるのだろう。すぐに理央に相手にされなくなってしまうだろう。

こうなったら、卒業までに告白するしかない!!


そんな決意をした日から今日で約3ヶ月。

見事理央は東京の大学に合格、私も地元の大学に合格した。

そして私たちはついに卒業した。

あーあ、言えなかった。何回もチャンスはあったのに。

涙で視界がぼやける。

次理央に会ったときには隣に可愛い子を連れてるんだろうなー。

後悔と悲しみと、情けなさと色んな感情がごっちゃになって涙になって溢れてくる。

たくさんチャンスはあったのに。ほんと、何してるんだ私。