「そう横井庄一さん、その人も名古屋の西の村の出身なんだ、死んだと思われていた横井さんが生きて帰った事が僕のお婆さんに希望を与えてしまった、、ひょっとしたら自分の息子も生きて帰るんじゃないかって」
戦後20年以上も経って生きて帰ったこと自体が奇跡だ、そんな人が何人もいるはずがないけど、母親が子供の死を受け入れ難いのは当然かも知れない。
「伯父は既に病死の戦死報告を受けていて死は紛れもない事実だけれど、お婆さんは息子の死を認めようとしなくなった、そのお婆さんも昨年息子の元へと旅立ったんだ、それを思い出していたから、、」
そういうことか、、やっぱり、、優しい人だ、、
「ごめん、変な話をしちゃったね。また時間が無くなっちゃうから、やろうか」
「うん」
私にそう声を掛けて先にドームの中へと入る彼が、振り返って注意を促した、
「白河さん、階段危ないから気をつけてよ」
50センチ余り高くなっているドームの入り口には3段の木製の踏み台が置いてある、雨ざらしのせいか半分腐りかけていて今にも崩れそうで怖かった、
「ほら、手を貸して!」
えっ、ちょっと待って急に言われても、、足元に気を取られていた私が顔を上げると、ドームの入り口から手を伸ばす彼がいた。恥ずかしくて遠慮がちに出した私の手を力強く握りしめ、私の躰をドームの中へと引き入れてくれた。
勢いに任せてそのまま抱きしめられそうなる、彼の吐息がかかるぐらい近すぎて顔も上げられなかった、また胸がキュンと締め付けられる。
「早く直してくれないとね、怪我でもしたら大変」
私は照れ臭ささを批判の言葉に変えて、さりげなく離れて距離をとった。
「材料と道具があれば僕がやってもいいんだけど」
私の手を離して椅子に座った彼が、こともなげに言い放った、
「そんな事が君嶋くんにできるの?」
「何でも直したくなる性分なんだ、玩具でも、家電でも一度分解して道理を理解すれば悪い箇所は自然と見つかるものさ」



