あなたに好きと言えるまで


一週間後の二回目の当番の日、前回の遅刻を反省したのか、彼は私より先に屋上にいた、ドーム横の屋上の手摺に掴まりぼんやりと景色を眺める横顔に、またしても胸が締め付けられる。あの優しげな眼差しが私は好きだ、あの瞳で私だけを見てほしい。そんな願望が日増しに強くなっている。
声を掛けようとして彼の瞳が潤んでいる事に気づいた。

なに?

見てはいけないものを見てしまった罪悪感に、私は近寄ることをせず気づかないふりをして遠くから声を掛けた、

「君嶋くん! ごめん遅かった?」

私に背を向け指で涙を拭う仕草をすると、彼は何事も無かったかようにこちらに笑顔を向けた。

せっかく気づかぬふりをしたのに、彼の涙の理由が気になって聞かずにはいられない、

「君嶋くん、、泣いてたの?」

「やっぱり見られてた、何でもないんだ、この景色を見ていたら自然と涙が溢れただけだよ」

「景色を見てただけで?」

「うん、、、空襲で沢山の人が死んだでしょ、、」

学校の周りは太平洋戦争末期の空襲で焼け野原になった場所だ、近くにあった軍に関係する工場が標的にされ2000人以上の死者を出した悲しい歴史があった、うちの学校の生徒なら誰もが知っている史実。確かにその悲劇を知っていれば悲しくもなるだろうけど、、
でも、それで泣くかな、

「私達が生まれるずっと前の話だよ」

「うん、そうだね。実は僕の伯父も出征したんだ、まだ僕が生まれる前の話だから顔も知らないけど、戦後20何年かして生きて帰った兵隊さんがいたでしょ」

「えっと、横井さんだっけ?」