保健室の中で、ギリギリの鍔迫り合いが繰り広げられていた。

手に汗握る、とはこのことである。

加勢に入りたいのに、その余裕さえない。

一体何なんだ。ドッペルゲンガー天音の、あの軽快な動き。

本来の天音は回復魔専門で、戦うのは苦手なはずなのに。

まさか本体よりも、ドッペルゲンガーの方がスペックが高く設定されているのか…?

シルナのドッペルゲンガーも、本人の上位互換を自称していたしな。

もしかしたらあのドッペルゲンガーは、オリジナルにはない才能を備えているのかもしれない。

そうでないと、説明がつかない…。

「…いや、ちゃんとオリジナルを参照してますけどね」

ようやく、顔の傷が少しずつ治ってきたナジュがポツリと呟いた。

は…?

オリジナルが何だって?

「な、ナジュ君!黙っててって!」

焦った本物の天音が叫んだ。

黙ってろって…?何を?

いや、それより。

「余所見してる暇があるの?」

「ぐっ…!」

ドッペルゲンガー天音の素早い刃が、天音に迫った。

同じ顔をした二人が戦っていると、不気味でしかない。

本来、天音は戦うのが苦手なのだ。

このままじゃ圧倒的に分が悪い。

「ほら、君もそろそろ本気を出しなよ。出し惜しみしてる余裕はないでしょ?」

ドッペルゲンガー天音は、この余裕の表情。

さっきからこいつ、何を…。

「そ、それは…」

「まだその気になれない?じゃあ…彼の腕の一本でも、切り落としてみせようかな?」

そう言って、ドッペルゲンガー天音は、剣の切っ先をナジュにを向けた。

この挑発は、天音には覿面だった。

「…!何を…!」

「どうせ不死身なんだから、別に良いよね。…何なら腕の一本と言わず、胴体ごとぶつ切りにしてあげよっか?」

「…」

ドッペルゲンガー天音の挑発に、天音はぎりぎりと強く杖を握り締めた。

…これほど激怒した天音は、見たことがなかった。

自分の為には怒れなくても、人の為ならこれほど怒ることが出来るのか。

「…あぁ、もう駄目かも」

天音はそう呟いて、杖を手放そうとした…。

…が。

「いや、その必要はないですよ」

ようやく顔の傷が治ったナジュが、風魔法の刃をドッペルゲンガー天音に放った。

…一対一では、圧倒的に天音に不利だが。

しかし、天音は一対一で戦う必要はない。

だって、天音には…心強い味方がいるのだから。