神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

でも、何て言えば良いんだろう。

まさか「あれは天音のドッペルゲンガーだから、偽物の言うことなんて気にしなくて良いんだ」なんて言えないし…。

言ったって信じないだろう。

何と言って宥めたものか、と思っていたら。

自称イケメンカリスマ教師が動いた。

「大丈夫ですよ。そんなこと気にしなくても」

「で、でも…私、さ、才能ないって…」

「イーニシュフェルト魔導学院に入学した生徒が、才能ないはずないじゃないですか」

…確かに。

ルーデュニア聖王国随一の魔導学院に入学している時点で、才能がない訳がない。

「それに、あなたはまだ一年生じゃないですか。これから、ゆっくりじっくり学んでいけば良いんです。天音先生の言うことなんて、気にしなくて良いんですよ」

「ひっく…。な、ナジュ先生…」

「ほら、もう泣かないで。あなたに泣き顔は似合いませんよ」

そっとハンカチを差し出しながら、優しい笑みを浮かべるナジュ。

…何だろう。

詐欺師に似た何かを感じる。

この笑顔に騙されちゃ駄目だよ。

しかし、まだ子供であるユリナには、覿面に効いたようで。

ようやく泣き止んで、多少落ち着いたらしかった。

まぁ、ユリナが泣き止んだから別に良いけどさ。

「でも、ナジュ先生…」

「どうしました?」

「天音先生、何であんな酷いことを…。天音先生は優しい先生だったのに…」

…うん。それは気になるよな。

普段の天音の姿と比較したら、まさに豹変と呼ぶに相応しい。

いきなり天音が変わってしまって、生徒は戸惑うだろう。

シルナのときと同じだ。

今度は、天音の様子がおかしいと噂になるかもしれない。

出来ればこれ以上、生徒を巻き込みたくないが…。

すると。

またしても、イケメンカリスマ教師が機転を利かせた。

「あなただけではなく、今日の天音先生は、誰に対してもイライラしてたんですよ」

「…?どうして…」

「仕方ありません。天音先生…今、生理前なんです」

「せっ…!?」

ユリナは、目を見開いて驚愕していたが。

俺もシルナも、噴き出すかと思ったよ。

何言ってんの?お前…。

「生理が終わったら、きっともとの天音先生に戻りますよ。だから大丈夫です。他の生徒にもそう言っておいてください」

広めるなよ。

これじゃあ「天音先生の様子がおかしい」じゃなくて、「天音先生性転換説」が噂されることになる。

しかし、ナジュは平然としていた。

「天音先生が酷いことを言っても、それは本心じゃないんですよ。ただ情緒不安定なだけです。生理前ですから、仕方ないんですよ」

「そ…そうなんですか…」

納得するのか。

「さぁ、だからもう気にしないで。大丈夫ですか?」

「は、はい…。あの…ありがとうございます…」

「良いんですよ。元気になってくれて良かった」

にこり、と人を騙す笑みを浮かべるナジュ。

…何とかこの場は切り抜けたが。

お前、後で天音に怒られても知らんからな。