神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

さて、それはそれ。

天音のドッペルゲンガーは、ひとまず後回しだ。

いや、後回しにして良いことじゃないけど、とにかくそれは後回しだ。

今は、目の前にいるレントを助けなくては。

保健室にはドッペルゲンガー天音がいる恐れがあるから、保健室に連れて行くことは出来ない。

だったら…。

「学生寮の、自分の部屋に戻ろっか。回復魔法をかけて、風邪薬を飲んで…」

…そうするしかないな。

回復魔法の方は、シルナに任せるとして。

風邪薬は後で、本物の天音にもらうとしよう。

「ほら、掴まれ」

俺はレントの前にしゃがみ込んで、そう言った。

こんなにふらふらじゃ、自分で歩くのも辛かろう。

「…グラスフィア先生…。学院長先生…。…済みません…」

また謝ってら。

「謝らなくて良いんだよ」

「…でも…先生…」

「でも、何だよ?」

「天音先生は…。天音先生、何であんな…」

…あぁ。

そりゃショックだったよな。具合が悪いのを助けてもらおうと思って保健室に行ったのに、大したことないからと突き返されたんだから。

ましてや、普段の優しい天音の姿とは酷くかけ離れていて…。そういう意味でも、豹変した天音の姿を見るのは辛かっただろう。

これじゃあ、治るものも治るまい。

「大丈夫だよ。多分、今日…天音先生は…情緒不安定だったんだよ」

そういうことじゃないけど、そういうことにしておこう。

「思ってもないことが口に出ちゃったんだろう。後で、俺達が話しておくから」

「…はい…」

「心配要らない。明日になったら、もとの天音先生に戻ってるよ、きっと」

強引に、レントをそう説き伏せて。

俺とシルナは、レントを学生寮に送っていった。

シルナが回復魔法をかけて、風邪薬を飲ませ、とにかく温かくしてしっかり休むように伝えた。

余程しんどかったのだろう。

寝間着に着替えて風邪薬を飲ませ、ベッドに倒れ込むなり、目を閉じて眠ってしまった。

念の為シルナの分身を派遣して、レントの様子を見守ってもらうことにして。

レントに、こんなにも辛い思いをさせた…ドッペルゲンガー天音に。

きちんと落とし前をつけてもらわないとな。

レントを学生寮に残して、俺とシルナは、真っ先に保健室に向かった。

拝んでやろうじゃないか。ドッペルゲンガー天音の顔を。

そして、一発くらいぶん殴ってやる。