神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…保健室…行ってたのか。

え?じゃあ、何で今ここにいるんだ?

「熱、測ったんじゃないの?保健室に残らなかったの?」

「…はい…。…その、天音先生が…」

天音。そうだよ。

保健室には天音がいるはずだ。

あの天音が、保健室を訪ねてきた、具合の悪い生徒の面倒を見ないはずがない。

きっと手厚くかんびょ、

「天音先生が…『このくらい大したことないから、教室に帰れ』って…」

「…」

「…」

俺もシルナも、驚いて言葉をなくした。

「保健室から追い出されて…。仕方なく、教室に帰って授業を受けてたんですけど…。…昼過ぎから、段々寒気が酷くなってきて…」

「…」

「それで耐えられなくなって…。保健室に行ったら、また追い出されるかもしれないから…それでここに…。…他にどうしたら良いか分からなくて…」

「…」

「…済みません…」

…いや、謝らなくて良いんだって。

何でレントが保健室ではなく、わざわざ学院長室にやって来たのか、その理由が分かった。

レントはちゃんと、保健室に行ったのだ。

だが追い返された。「大したことないから出ていけ」と。

それで行き場をなくして、倒れる寸前まで無理をして。

そしてついに行く宛をなくして、藁にも縋る思いで、学院長室にやって来たのだ。

具合が悪くなったのに、保健室にも行けず、困り果ててここに行き着いた、レントの気持ちを考えると。

あまりに気の毒で、申し訳無さまで感じる。

…あの天音が、保健室を訪ねてきた具合の悪い生徒を追い出すなんて。

そんなことは絶対に有り得ない。

天音と言えば、シルナに並ぶくらい優しくて、親切で、生徒にとって親しみやすい教師だ。

ましてや、体調を崩した生徒を看病もせずに締め出すとは。

それにレントは今…三時間目に保健室に行った、と言ったな?

確か今日の三時間目、天音は回復魔法の授業の為に、保健室を留守にしていたはずだ。

誰もいないはずの保健室に、天音の姿をした誰かがそこにいて。

そして、保健室を訪ねてきた生徒を冷たく追い返した…。

間違いない。

レントが保健室に行ったとき、そこにいた「天音先生」は…。

「シルナ…。それって多分…」

「うん…。『偽物』だろうね」

俺とシルナは、互いに険しい顔を見合わせた。

…だろうな。

どうやら、二体目のドッペルゲンガーは…天音のドッペルゲンガーらしい。