神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

しかも、よく見てみると。

シルナは大量のチョコ菓子を、小さなラッピングバッグの中に、小分けにして詰めていた。

シルナがよく、文化祭やオープンスクールのときに来場者に配る、配布用チョコレートだな。

何で今、配布用チョコを作ってるんだ?

シルナがお菓子を配るようなイベントは、まだまだ先のはずだが。

「私はね、羽久…。思ったんだよ」

シルナは、至って真面目な顔で言った。

…絶対ろくなことじゃないな。

ろくなことじゃないけど、聞いてやるよ。俺は慈悲深いからな。

「…何を?」

「いきなり私達のドッペルゲンガーが出てきて、びっくりしたでしょ?それに怖かった」

まぁ、そうだな。

「しかも、そんなドッペルゲンガーがあと六体も出てくるんだよ?何が起きるか分からないよ」

うん、そうだな。

俺も、いつ自分と同じ顔をした奴が目の前に出てくるかと、戦々恐々としてるよ。

こうしてる間にも、俺の偽物が何処かで暗躍してるかもしれないんだろ?

俺の顔をして、勝手なことをしないでもらいたいものだ。

「しかも…何故か、封印してたはずの童話シリーズが目覚めようとしてる」

…そうだな。

それは謎だな。

一体誰が何の為に、どんな経緯で。

眠っていたイーニシュフェルトの里の遺産を、今更この世に引っ張り出してきたのか。

何らかの悪意があるとも考えられる。

童話シリーズの封印が解けた、その謎も気になるが…。

「もしかしたら、他の童話シリーズの封印も解かれてるかもしれない。そうしたら、また巻き込まれるかもしれないでしょ?」

「そうだな。想像したくはないが…」

「だから、チョコあげようと思って」

「…は?」

何が「だから」なんだ?

童話シリーズの封印が解かれていることと、チョコレートを配ることに、何の関係が?

「チョコレートをあげたら、平和的にお引取り願えるかもしれない…。引き取ってはもらえなくても、話し合いに応じてくれるかもしれないでしょ?」

「…」

「チョコレートを食べながらゆっくり話し合えば、きっと分かってくれるよ。人間、チョコを食べながら悪いことは考えられない生き物だから。チョコを食べればきっと心が落ち着くし、悪さしようとは思わなくなるよ」

…。

…怪しいお薬か何か?

「だから、いつドッペルゲンガーや、他の童話シリーズが現れても良いように…。チョコの用意しておこうと思って」

成程。

…。

…今更だけど、やっぱりドッペルゲンガーシルナに戻ってきてもらった方が良いかもしれない。