「イレースちゃん…君まで、私を否定するの?」

「当たり前でしょう。偽物の分際で、生意気なことを言うんじゃありません」

手厳しい。

さすがはイレースである。

「でも、君にとっては、私が学院長になる方が都合が良いんじゃないの?」

「えぇ、そうでしょうね」

それは認めるんだ。

さすがはイレースである。

「大体この学院長は、学院の厳しい経営状態も知らず、毎月のように多額のおやつ代を使い込み、それを生徒にばら撒いているんですから。毎月毎月、菓子の請求書が来る度に、学院長を丸焦げにしたい衝動を必死に抑えてますよ」

「…」

オリジナルシルナ、ガクブル。

お前、いつかイレースに丸焦げにされるだろうな。

…しかし。

「でも、それはそれ、これはこれです。使い込みをしないから、雑務を積極的にこなすから…それが何だって言うんです?イーニシュフェルト魔導学院の学院長は、シルナ・エインリーです。シルナ・エインリーの顔をした偽物ではありません」

「…!」

…だよな。

俺も同じ気持ちだよ、イレース。お前の言う通りだ。

「…大体、あなた教員免許持ってないでしょうが。学院長になりたいなら、教員免許くらい取ってから言いなさい」

そこかよ。

いや、それは確かに大切なことだけど。

よく気がついたな。俺、全然気づかなかったよ。

「そういう訳ですから、さっさとお引取り願います。偽物の居場所はここにはありません」

「…」

俺に続いて、イレースにも存在を否定されたドッペルゲンガーシルナ。

今この場にはいないが、天音も、ナジュも、令月やすぐりも、きっと同じことを言うだろう。

俺達にとっての恩人は、このドッペルゲンガーではない。

例え、学院長としてだらしなかろうと、甘い物に溺れていようと。

シルナじゃないシルナなんて、そんなのただの他人だろう?

恩人を他人と履き違えるほど、耄碌しちゃいないよ。

「羽久…。イレースちゃん…」

涙目のオリジナルシルナが、ぐすっ、と鼻を啜っていた。

やれやれ。

「…まぁ、真面目な学院長というのも、ちょっと未練がありますが」

「ちょ、イレースちゃん!?」

「冗談です」

冗談に聞こえなかったよ。

今の本音だろ?本音がポロッと出たんだろう?

それは分かるけども。抑えようぜ。

「…そっか。それなら、仕方ないね」

ドッペルゲンガーシルナは、溜め息混じりにそう言った。

お、何だ。やるか?

「だったら、力ずくで奪い取らせてもらうよ」とか言って、これからドンパチやり合う気か?

やれるものならやってみろ。返り討ちにしてやる。

と、思ったが。

「分かった。私は消えるよ」

…え?