神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

そして。

「人格が一つや二つ増えたからって、お前を気味悪がる訳ないだろ?」

「な、何で…?怖くないの?」

怖いって。

そんなもんを怖がってたら、世の中怖いことだらけだな。

「あのなぁ、俺が何年生きてると思ってるんだ?」

馬鹿にしてもらっちゃ困るぞ。

長いこと生きてりゃ、色んな奴に出会う。

生まれながらの聖人のような奴にも会ったし。

稀代の殺人鬼みたいな奴にも会ったし。

傾国の美女ならぬ、傾国の死神にも会ったな。

世界には、ありとあらゆる…色んな意味で、「変な」奴が大勢いるもんだ。

さすがに、多重人格者の神の器に会うのは、俺も初めてだが。

しかし、だからって気味悪がる理由はない。

その程度で怯えるほど…人生経験、浅くはないぞ。

「変わり者なんて、これまでいくらでも会ってきたよ。いちいち気味悪がってたら、切りがないっての」

「…でも、ジュリス…」

「…心配するな、ベリクリーデ」

俺は、ベリクリーデの頭にぽん、と手を置いた。

「何が生まれようと、お前はお前だ。そして、お前が何者になろうと…俺がお前の傍を離れることはない」

ベリクリーデ自身が、俺なんかどっかに行ってしまえ、と望まない限りな。

こんな世話の焼ける奴、放っておけるかよ。

そこまで薄情じゃないぞ、俺は。

「心配しなくても大丈夫だ。俺はお前を怖がらない。だから…お前も、自分を怖がるな」

「…」

神の器?

多重人格?

知ったことか。ベリクリーデはベリクリーデだ。

神の器である前に…こいつは、ただの女の子だろ。

「…ジュリス、私のこと気味悪くないの?」

「アホな奴だと思ったことは、無限にあるが…。気味が悪いと思ったことはないな」

「…そっか…」

この程度で気味悪がってたら、長生き出来んぞ。

「分かったか?」

「…うん」

「よし、それで良い」

心配する気持ちは分かるが…しかし、恐れる必要はない。

ゆっくりでも、受け入れていけば良い。自分のことを。

羽久のようにな。

ベリクリーデがどう変わって行こうと、ベリクリーデであることに変わりはないのだから。

「…ありがと、ジュリス」

「礼を言うようなことじゃねぇよ」
 
俺は、お前の相棒だからな。