神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ベリクリーデは、いかにも言いにくそうに。 

ぐるぐると視線を彷徨わせながら、ポツポツと悩み事を口にした。

「他の人はね、他の人に気持ち悪いと思われるのは…別に、良いんだよ。良くはないけど…。でも、我慢出来る」

「…」

「でも、ジュリスに気持ち悪がられたら、嫌なの。それは凄く…悲しいの」

「…」

「他の人は別に良い。何て思われても…。…でも、ジュリスだけは嫌。嫌われたくない…。気持ち悪いと思われたくないの」

「…」

「…でも、無理かな。これから私の中に、他にもたくさん別の私が生まれて…私が誰なのか分かんなくなっていって…」

…ベリクリーデの中に、別のベリクリーデが…。

ベリーシュの他にも、何人か生まれる可能性はあるな。

羽久のようにな。

「気持ち悪いって思うよね。近寄りたくないって思うよね。…そうしたら、私一人ぼっちになっちゃうなーと思って」

「…」

「私の中に他の私が増える度に、『私』が一人ぼっちになるの。…それって、凄く寂しいよね」

その孤独を、その恐怖を…体験しているベリクリーデだからこそ、分かる。

自分が、自分の知らない何者かになろうとしている。

それ故に生まれる、不安。

心許ないよな。落ち着かないよな…。自分が何者なのか、分からなくなるよな。

…だけど…。

「ジュリスに見捨てられたら、私…凄く寂しいよ」

「…」

成程ね。

じゃあ、そんなお前に一つプレゼントだ。

俺は手を伸ばして、ベリクリーデの額に指を当て。

ピコンッ、と弾いた。

「…ぴきゃっ」

痛かったか?

所謂、デコピンって奴だな。

「な…何でピンってするの…?」

額を押さえて、こちらを見上げるベリクリーデ。

あぁ、悪かったな。

「お前が、あまりにもアホなことを言うもんだから…ついな」

「あ、あほ…?」

「アホだろ?」

どう考えても。

全く、何を考えているのかと思えば。

そんな…しょうもないことを、眠れなくなるほどに考えていたとな。

やれやれ。

本当…世話の焼ける奴。

…こんな世話の焼ける奴を、放っておける訳ないだろ?

「一つ言っといてやる。ベリクリーデ…。お前の中に誰が生まれようが、何なら20人くらい増えようが…お前はお前だ。他の誰でもない」

そのことを忘れるな。

自分が何者なのかを、決して見失うな。