神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…で、またその日の夜のこと。

「ジュリス、来たよー」
 
「…」

…今夜も来るだろうなと思って、待ち構えていたら。

本当に来たよ。

案の定だったな。

当たり前のように来やがった。またパジャマ姿で。

そろそろ慣れてきたぞ。慣れたくないけどな。

「ジュリス、一緒に寝よー」

一緒に寝よーじゃねぇんだよ。

こんなこと毎日続けてたら、ますます、誤解を解くのが難しくなっていく。

そろそろ、この負のループ(?)をどうにかしなくては。

そもそも、全ての原因は…。

「…あのさ、ベリクリーデ」

「何?」

「最近、しょっちゅう俺の部屋に来てるけど…。自分の部屋で寝ろよ」

「だって、眠れないんだもん」

…これだよ。

適当な言い訳だと思って、ずっと聞き流していたが。

冷静に考えると、こんなことは初めてだよな。

ベリクリーデは普段、寝付きの良いタイプだったはず。

そんなベリクリーデが、最近になって、「眠れない」と口にすることが増えた。

嘘をついているだけなのかもしれないが…。

…ベリクリーデはアホだし、幼稚だし、間抜けだけど。

しかし、嘘をつく人間ではないんだよな。

良くも悪くも、何処までも純粋で無邪気って言うか…。

だから、突拍子もないことをして、周囲を困らせはしても。

嘘をついて、他人を騙すことはない。

むしろ、ベリクリーデは騙される側だもんな。

そんなベリクリーデが、ここ最近、「眠れない」を連呼している。 

これはどうしたことか。

そもそも俺の部屋に来るようになったきっかけも、これなんだよな。

つまりここを解決してしまえば、ベリクリーデも大人しく、自分の部屋で寝るのでは?

「眠れないって…。お前、俺の部屋で寝るときは、一瞬で寝てるじゃん」 

3分どころか、3秒で寝てたぞ、お前。

それで「眠れない」とは、どういう意味だ。

すると。

「ジュリスのところに来たら、眠れるんだよ。何だか安心するの」

…とのこと。

あぁ、そういう…。

それで、わざわざ俺の部屋まで来てから寝るのか。

俺にとっては良い迷惑だが、ベリクリーデにとっては、不眠症改善の為に、やむなくやってることだったんだな。

俺のところに来ると安心する…か。

つまりそれは、裏を返せば…。

自分の部屋で寝てるときは、安心出来ない、ってことだよな?

…何で?

「お前が不眠症なんて、珍しいな」

「そうだね。自分でもそう思う」

一応、自覚はあったらしい。

…しかし、これって結構心配だよな。

睡眠は万病の薬だと言ったが、それはつまり、逆に言うと。

睡眠が取れなくなったら、万病の元にも繋がるってことだ。

それだけ大事なんだよ、睡眠って。人間にとって。

ベッドの中で、一人朝まで、眠れない夜を過ごす時間というのは…酷く長く感じることだろう。

自分のところじゃ眠れなくて、俺の部屋に来れば眠れると分かっているなら…俺の部屋に足が向くのも仕方ない。

…さっきも言ったが、俺にとっては、良い迷惑だけどな。