神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「お前…!こんな偽物に百万円も注ぎ込むなんて、アホじゃないのか?すぐ返してこい!」

これ、クーリングオフって利くのか?

今日買ったばかりなら、まだ行けるかもしれない。

ベリクリーデも聖魔騎士団魔導部隊の大隊長で、金に困っている訳ではないとはいえ。

だからって、無駄遣いして良い訳じゃないからな。

ましてや、こんな贋作のツボの為に百万円など、とんでもない。

俺達の給料は、国民の税金なんだぞ?

国民の税金でもらった給料で、こんなものを買うなんて。

ルーデュニア聖王国民に、申し訳が立たない。

…それなのに。

「大丈夫だよ、ジュリス」

何が大丈夫なんだよ。

何も大丈夫じゃねぇよ。

「これはね、ただのツボじゃないの」

「知ってるよ。贋作のツボだろ?」

「これ、幸せになれるツボなんだって」

「…??」

…ちょっと、また訳の分からないことを言い出したんだけど。

誰か説明してもらえないだろうか。

「これを持ってるとね、良いことが起きるんだって。えーと…魂が清められて、身体が元気になって、毎日穏やかに暮らせるんだって」

「…」

「百万円は高いなぁと思ったけど、ジュリスはよく怒ったり怒鳴ったりするから、ジュリスが穏やかに暮らせるなら、これプレゼントしようと思って。だから高くても買ったの」

「…あ、そ…」

…何だろう。

「怒ってるのは全部お前のせいだ!」とか。

「そんな胡散臭いツボがあるか!」とか。

言いたいことは山ほどあるのに。

ベリクリーデの気持ちがあまりに純粋で、あまりに裏表のない好意を向けられるものだから。

…怒るに怒れないんだけど。

ズルくね?

そういう言い方はズルいだろ。

「あなたの為なんだよ」と言われて、怒れるはずがない。

…けどな。

「…だからって百万はねーわ」

…間違いなく。

間違いなく、これは詐欺だ。

何も分からない、人を疑うことを知らない、良い意味で純粋な…。

悪い意味でお子様なベリクリーデを、舌先三寸で騙し。言いくるめ。

何のご利益もあるはずのツボに、百万円という値札をつけて売りつけたのだ。

とんでもない極悪人がいたもんだ。

引っ掛かるベリクリーデもベリクリーデだけどな。

「一体誰から買ったんだ?これ…」

「?騎士団隊舎の門のところにいたら、女の人が売りに来たの」

訪問販売だな?

悪名高い、訪問販売詐欺。

「神様を信じてるかとか、神様が守ってくれるとか、そんな話をしてくれたの」

しかも、宗教絡みか。

余計タチが悪い。

「この人、私の中に神様がいることを分かってくれてるんだと思って、話が弾んだんだー」

成程。

まさかその売り子も、ベリクリーデの中に本物の神がいるとは思ってなかっただろうな。

「『何か悩んでることはありませんか』って聞いてくれてね。親身になって、私の悩み事を聞いてくれたりもしたんだよ」

それが仕事だからな。

そういう甘い言葉で懐柔し、高いものを売りつけるのが…奴らの手口なんだよ。

あまりにも鮮やかにハマってて、呆れを通り越して涙出そう。