神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

今夜のベリクリーデは、手ぶらではなかった。

一抱えもある、重そうな…ツボを抱えてやって来た。

…何のツボ?

「よいしょ、よいしょ…。うー、重たい…」

「あ、うん…」

重そうなツボを抱えて、よろよろしているベリクリーデを見て。

俺は咄嗟に、ベリクリーデの手からツボを奪い取った。

おぉ、本当に重いぞ、これ。

こんなもの、自分の部屋から持ってきたのか?

よく落とさなかったな。

「ふー…。ありがと、ジュリス」

「いや、それは良いんだけどさ…」

俺は、重いツボを床に置いた。

「…どうしたんだ?このツボ」

「ジュリスにプレゼントだよ」

まさかの、俺への贈り物だった。

意味不明過ぎて、そのときの俺には、もう。

ベリクリーデを追い出そうとか、決して部屋に入れまいとか、そんな固い覚悟は、頭の中から吹っ飛んでいた。

こういうところが俺の甘さ、弱さなのだろうが。

でもしょうがないだろ。いきなりこんなツボを抱えてやってきたら、どうしたのか心配にもなるだろ。

ただでさえベリクリーデは、いつも突拍子もないことを突然始めるんだから。

「これ、今日買ってきたんだ」

そうなの?

「俺、別にツボは要らないんだけど…」

俺に、骨董品収集の趣味はないぞ。

しかも、このツボ…。

一見すると、重厚そうな造りで、小さな古傷なんかもあって、いかにも趣があるように見えるが…。

よくよく見ると、デザインは安っぽいし、ツボの内側はまだまだ綺麗で、新しい。

わざとらしく、製作者のサインなんかも入ってるが…油性マジックで書いたかのような、雑なサインだった。

素人目にも分かる。どう見ても、これは贋作だ。

近所の陶芸教室作か?

まぁ、別に贋作でも、インテリアとして飾っておく分には…風情があって良いのかもしれない。

「でも、これ凄く高かったんだよ?」

「え、そうなのか?」

贋作だろ?

こんな出来の悪い贋作のツボ、精々数千円。

まぁ、結構モノが大きいから…吹っ掛けられたとしても、一万円は越えないだろう。

…しかし。

「うん。百万円だった」

「…!?ばっ…馬鹿じゃねぇの!?」

深夜だということも忘れて、俺は思わず大声でそう言ってしまった。

ごめんな、隣室の住人。起こしたら申し訳ない。

でも、悪いのはこのベリクリーデだから。

…百万円だと?このツボが?