神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

あ…あぶなっ…!!

もうちょっとで、言い訳の出来ない事態に発展するところだった。

何を考えてるんだ。この破廉恥女。

「?どうしたの、ジュリス」

それはこっちの台詞だ。

先に寝てやり過ごそうと思ってたのに、結局起こされてるんだが?

「別に落ち込んでねぇし、つーかベッドで慰めるとか、そんな破廉恥なことを何処で学んできたんだ!?」

「だって、落ち込んでる男の子を慰めるには、ベッドで励ますのが一番だって前読んだ本に書いてあったよ?」

その本、ちょっと持ってきてくれ。

そんな不健全極まりない本は、白ポストに叩き込んでやる。

そりゃまぁ…間違ってはない…のかもしれないが。

俺は別に落ち込んでないし。落ち込んでたとしても、そんな方法で慰められるなんて御免だ。

「アホなこと言ってないで、自分の部屋に帰れ!」

「でも、眠れないんだもん」

嘘つけ。

一瞬で寝るだろ、お前。

「遊ぼう、ジュリス。遊んで」

「遊ばねぇよ」

「昨日、ジュリスが野球拳は駄目だって言うから、ちゃんと新しい遊びを考えてきたんだよ」

勝手に話を進めるな。

良いよ、なんて一言も言ってないからな?俺。

…だが、一応聞いてやろう。

「…今日は何の遊びなんだ?」
 
「ちょーはん博打」

危険度マックス。

昨日の野球拳と言い、何処でそんな危険な遊びを学んできたんだ…?

「簡単な遊びなんだって。『ちょー』か『はん』か決めるだけなんだよ」

そうだけど。

「やろう、ジュリス。楽しいよ」

「駄目に決まってるだろ。何考えてんだお前は」

「?」

人によっては、ドハマりする遊びなんだろうな。

だが、人生上手く立ち回りたいなら、博打には手を出さない方が良い。

理性のある人なら、程よく娯楽として楽しめるのだろうが。

その理性を、あわよくば吹き飛ばそうとするのが…博打というものである。

危険を犯すくらいなら、初めから関わらない方が賢明というもの。

ましてやベリクリーデは、何でも本能のままに行動するからな。

こんな奴がギャンブルに手を出すなんて、とんでもない。

絶対駄目。

「だって、楽しそうなのに」

「駄目だ、やめておけ。他の遊びなら付き合ってやるから、博打はやめろ」

他の遊びに付き合いたい訳じゃないけど。

ベリクリーデが博打にハマるよりマシ。

「しょうがないなー。ジュリスがそこまで言うなら、やめてあげるよ」

「おぉ、そうしろ…。…って、何で俺が我儘言ったみたいになってんの?」

お前の為に言っただけなんだが?

「そんなことは良いから、お前は部屋に帰れ。俺はもう寝るんだよ。お前も大人しく寝ろ」

「そうだね。じゃあおやすみー」

「おい、誰がここで寝ろって言った。自分の部屋に帰ってから寝ろよ!」

と、叫んだときには、もう遅く。

「…zzz…」

…はいはい、いつものパターンね。

俺が諦めれば良いんだろ?知ってる知ってる。

でも、俺…昨日もオールだったせいで、今夜も朝まで眠れないなんて、明日持たないからさ。

「…床で寝るか…」

泣く泣く、俺はベッドから降りて、床で横になった。

…何で、部屋主の俺が床で寝て、押しかけてきた奴がベッドで寝てんの?

おかしくね?

でも仕方ないだろ。女であるベリクリーデを、床に放り投げる訳にはいかないし。

…あぁ、もう考えるのやめよう。

床だろうが原っぱだろうが、眠ってしまえば、場所なんて関係ない。

俺は考えることを放棄し、そのまま目を閉じた。