「ジュリス遊んで」

「…ベリクリーデ」

俺はペンを動かす手を止めた。

…。

「…お前に言いたいことが三つある」

「多いね。一個に出来ない?」

何様だお前。

「出来ない。三つ全部聞け」

「しょうがないなー」

何で俺が駄々っ子扱い?

「…まず一つ目。今、何時だと思ってんだ」

そろそろ日付が変わる時間だぞ。

およそ、人を訪ねる時間ではない。
 
例え何か用事があったとしても、明日に回すだろう、普通。

余程、火急な緊急事態が起きたならまだしも。

「深夜だぞ。分かってるか?寝る時間だぞ」

「ジュリスは起きてるじゃん」

「俺は仕事だ。残業があるんだよ」

遊ぶ為に起きてるんじゃねーよ。お前と違ってな。

「だって、ベッドに入ったけど眠れなかったんだもん」

「だからって、あのなぁ…」

「じゃあ、ジュリスのところに遊びに行こうと思って」

何が「じゃあ」なんだよ。

何故、眠れなかったら俺のところに来ようという選択肢が生まれるのか。

「それで遊びに来た」

来るな。

「…起きてたから良かったようなものの…お前、俺が寝てたらどうするつもりだったんだ?」

「?起こす」

起こすな。

「…はぁ…」

…今日に限って持ち帰り残業してて、本当に良かった。

寝てるときに部屋に入ってこられたら、翌日、様々な誤解が生まれかねないところだった。

あぶねぇよ。ただでさえ、『白雪姫と七人の小人』の結婚式の件で、良からぬ噂が広まりつつあるのに。

「それでジュリス、二つ目は何?」

あぁ、そうだったな。

一応聞く気はあるんだな。

「人様の部屋を訪ねるなら、パジャマじゃなくて着替えてから来い」

寝間着姿で人を訪ねるんじゃねぇ。

そんな格好で深夜の男性隊舎をうろうろして、変な気を起こす奴がいたらどうするんだ。

こいつは、中身はともかく、見た目だけはそれなりに整っているのだから。

中身はともかく、な。

「何で?ジュリスだってパジャマ着てるじゃん」

これはジャージだ。

自分の部屋でなら、何着てても良いさ。

だが人の部屋を訪ねるときは、最低限の格好ってもんがあるだろ。

…まぁ、ほぼ毎朝起こしに行ってるから、お前のパジャマ姿はしょっちゅう見てるけどさ。

今更かもしれないけどさ。でもけじめってもんがあるだろ。

あぁ、頭痛くなってきた。

「三つ目は何?」

「人の部屋を訪ねるときは、ちゃんとノックしてから入れ。無断で開けて気まずいことになったら困るだろ」

「気まずいこと?何?」

俺の口からは言えねぇよ。

「つーか、眠れないからって深夜に部屋を抜け出すな。大人しくしてろ。それから俺は忙しいんだ。遊んでる暇はないんだよ。お前も遊ぶほど暇を持て余してるなら、少しくらい書類仕事をやれ!」

俺が何で、こんな時間まで残業してるか知ってるか?

相棒のベリクリーデが覿面に書類仕事に弱いから、俺が全部代わってるんだよ。

給料二人分もらわないと、割に合わないだろ。