神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…村が襲撃されてから、三日が過ぎた。

家事で家を失った村人の為に、仮設の小屋を建て。

村人達は、ようやく屋根のある場所で眠れるようになった。

村は落ち着きを取り戻し、ひとまずホッとした…ように見えたが。

あれだけのことが起きたのだ。

村人達の間には、不安と緊張が広がっていた。

そして、同時に。

秘境の村の移転…村人達の新天地への移動計画が、大幅に早められることが決定した。

これはユリヴェーナにとっても、非常に喜ばしい出来事だった。

村人達は時間を惜しまず、人員や物資を新天地にこっそり移動させた。

政府軍に目をつけられては困るので、移動は夜間に限られた。

半ば夜逃げのような出て行き方だが、こればかりはどうしようもない。

闇の魔力に身体を侵されたユリヴェーナは、当然疲れているに違いないのに…誰よりも率先して動いていた。

それでもユリヴェーナ本人は、村人達を無事に新天地に送り届けることが、何よりの使命だと考えているからか…少しも疲れた顔を見せなかった。

大したもんだと思う。

…思えばこれが、ユリヴェーナにとって…最後の務めだったのかもしれない。







「…それで…結局、新しい秘境の村は何処に出来るんだ?」

夜の間に、村人の一団を新天地に送り届け。

夜明け頃一人で帰ってきたユリヴェーナに、俺はそう尋ねた。

新天地を目指す…のは結構だが、新しい村の所在地を、政府軍に知られたら。

今と同じ事態に発展しかねない。それじゃあ意味がない。

「山と谷を越えた先にあるんだ。かなり奥まった場所だから…そう簡単には入ってこられないよ」

体調が万全でないにも関わらず、村人達を送り届けてきたばかりで、疲れているに違いないのに。

ユリヴェーナは、少しも疲れを感じさせない顔で答えた。

「本当に大丈夫なのか?」

「あぁ。あれほど深い谷を越えようと思ったら、普通の人間だけじゃ無理だ。僕や君のように…特別な力を使える者が助けなければ」

…成程。本当に秘境だな。

「勿論、新しい場所に順応するまでには、相応の時間がかかるだろう…。でも、いくつも世代を経て、新天地に深く根を下ろせば…いつかは、そこがふるさとになるだろう」

住めば都。石の上にも三年。って言うもんな。

余程痩せた土地でもない限りは、それなりに適応していくだろう。

「皆を新天地に送り届ければ、それで僕の使命は果たされる…」

ユリヴェーナは、ポツリとそう呟いた。

おい、何を言ってるんだ。

「何弱気になってんだ。死んだ気になるなって言ったろ?」

「あ、いや…そんなつもりでは」

「送り届けるだけじゃ駄目だろ。村人達が新天地でしっかり根を下ろすまで、しっかりアフターサービスしろよ」

「あ、アフターサービスか…。確かに、そうだな…」

送り届けて、はいおしまい、じゃつまらねぇぞ。

村人達の行く末を、お前の目で確かめなくてどうする。

「僕だって死ぬつもりはない。これからも皆と共に…秘境の村の未来を守るつもりだ」

「あぁ、そうしろ」

特別な力を使えるお前がいれば、新天地での定住も、少しは早くなるだろう。

村人達の心の安寧、精神的な支えにもなる。

だから、そんな簡単に…死んだ気になっちゃいけない。




…それなのに。