神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

シャツの下、ユリヴェーナの身体を見て…俺は息が止まる思いだった。

既にユリヴェーナは、魔剣から手を離している。

それなのに、ユリヴェーナの上半身は、赤黒い痣が一面に広がっていた。

今ではその痣が、首元にまで滲出していた。

「…お前…その痣…」

「…もう、当分前からこうだよ。誰にも見せていなかったが…」

…そんな…。

「関係ないんだ。今となってはもう…魔剣を手放そうと、僕の運命は変わらない。ここまで浸食されていれば…。僕の未来は、遠からず尽きる」

「…」

「皆と同じ未来を生きられないなら…。せめて僕は、皆の未来を守りたいんだ。この命をとして…」

「…何で、そこまで…」

そこまでして…自分の身を犠牲にしてまで…。

そうまでして、守る価値のあるものなのか?お前の故郷は。

その為に死んでも良いと思えるほどに?

「…命をかけて守るという行為が、無意味であるはずがないんだよ、ジュリス」

ユリヴェーナは俺の考えを読んだかのように、そう言った。

「例えそれが、他人にとってどうでも良い…つまらない、路傍の石ころだとしても…その石ころを守る為に、命をかけて戦うなら…それは無意味なんかじゃない」

「…」

「…その石ころが、もしかしたら、未来の為に何か役立つかもしれない…。無意味であろうはずがないんだ。馬鹿馬鹿しいように思えたとしても…」

「…そうかよ」

そんな覚悟で、お前は…。

…そんな覚悟で、戦ってきたんだな。

だったら、どうして俺が止められようか。

これほど強い意志と覚悟を持って、自分の死と向き合おうとしている人間を。

どうして、俺ごときの言葉で止められようか。

「分かった…。お前の望むようにすれば良い。…もう止めない…」

「…ありがとう、ジュリス」

一度きりの人生を、お前が後悔しないように。

自分の命をどうか、精一杯生きてくれ。

「…村に帰ろう」

「あぁ、そうだな」

俺はユリヴェーナに肩を貸し、彼女を立ち上がらせた。

それだけでも辛いのか、ユリヴェーナは顔をしかめていた。

…すると。

「…一つ、頼み事をしても良いか?」

と、ユリヴェーナは言った。

「一つどころか、結構頼み事されてる気がするけどな」

剣術を教えてくれとか、村人を守ってくれとか。

「そうだったな…。じゃあ、駄目か?」

「…まぁ、言うだけなら言ってみろよ」

気が向けば、聞いてやるかもしれない。

すると、ユリヴェーナは俺が予想だにしない頼み事をした。

「…もし、私の身に万が一のことがあったら…そのときは、君が『魔剣ティルフィング』をもらってくれないか」

「…!」

…さぁ。

これでもう、分かっただろう?

今の俺が、どうしてこの魔剣を手にしているのか。

…つまりは、そういうことだ。