神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

良かった。生きていた。

「ユリヴェーナ…!こんなところに、」

声のした方に走り、ユリヴェーナに手を差し伸べよう…と、したが。

俺はユリヴェーナの姿を見て、愕然とした。

ユリヴェーナは泥だらけの姿で、地面に倒れ伏していた。

血の気が引いた顔は青ざめ、呼吸も浅く、今にも、死…。

「ユリヴェーナ…お前…」

「ふ、ふふ…。僕としたことが、恥ずかしい姿を見せてしまったな…」

「…笑ってる場合かよ」

俺はユリヴェーナの手から、魔剣を引ったくった。

これが全ての原因だ。

『魔剣ティルフィング』の持つ闇の魔力が、ユリヴェーナの身体を蝕んでいる。

長時間魔剣の力を行使した代償に…ユリヴェーナは、文字通り死にかけていた。

「ジュリス…。村人は…?皆は無事か…」

しかも、自分がこんな姿になっているというのに。

まず心配するのは、自分じゃなくて他人のこと。

「無事だよ、一応な…。怪我をした人間は、全員治療した」

「…良かった…。ありがとう、皆を守ってくれて…」

「…」

皆は守れたのかもしれないが、お前は守られていないだろう。

俺は黙って、ユリヴェーナに回復魔法をかけた。

消耗した魔力の回復を促し、疲労を軽減する為の回復魔法だ。

ユリヴェーナの身体を侵蝕している、闇の魔力を取り除くことは出来ないが。

これで、気休めくらいにはなるだろう。

「済まない…。少し楽になった…」

「…そんなことは良い」

魔力の使い方を覚え、剣術の腕を上げれば…なんて。

そんな悠長なことを言ってる場合じゃないのだと分かった。

よく分かったよ。

「お前は、もう…『魔剣ティルフィング』を使うな」

これが、一番の解決法だ。

死にかけてるじゃないかよ、お前。

今回だって、もう死んでもおかしくなかったんだぞ。

戦闘がもう少し…あと一時間、いや、あと30分でも長く続いていたら。

今頃ここに横たわっているのは、ユリヴェーナの死体だったはずだ。

「お前は英雄なんかじゃない。お前の身体は、これ以上魔剣に耐えられない」

「…」

「もう充分だろ。もう充分…お前は正義を行った。村人に事情を話して、これ以上魔剣を使わないで済むように…」

「…それは出来ない」

ユリヴェーナは、静かに首を横に振った。

「僕は皆にとって、希望の星なんだ…。皆が絶望せずにいられるのは、僕が魔剣を手にしているから…」

「…」

「皆が新天地に辿り着き、秘境の村を再興するまで…それまで持てば良い。皆が新しい生活を始めるまで…」

…何を言ってるんだ、お前は。

「その前に、お前は死ぬんだぞ」

お前が魔剣の力を使うことで、村人達の命は助かるかもしれない。

秘境の村は新天地に移住して、滅ぼされることなく存続するかもしれない。

村人達は新しい場所で、新しい生活を始め、新しい文化を育てていくのだろう。

それは村人達にとって、希望に満ちた未来なのだろう。

…でも。

その未来の中に、お前は存在していないんだぞ。

そんな未来、クソ食らえだろう。

「死んだら、何の意味もないんだぞ…」

お前が守る未来に、お前がいないんじゃ…意味がないだろう。

何をおいても、まず生きていなければ。

生きていれば再興の機会はあるが、死んだら全て終わりなんだ。

…それなのに。

「…意味ならあるさ」

ユリヴェーナはそう言って起き上がり、シャツのボタンを外し、自分の胸元の見せた。