神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…一体、どれだけ時間が過ぎただろう?

体感時間としては、もう丸2日くらい過ぎたような気がしているが。

多分、まだ数時間しか経っていないはずだ。

その数時間の間で、秘境の村の様相は大きく変わっていた。

「…酷いもんだな」

破壊の限りを尽くされた村の中を見て、俺は思わずそう呟いた。

ユリヴェーナに頼まれてから、俺は怪我をした村人を片っ端から治療して回った。

村の中心にある広場を拠点に、助けを求めて避難してくる村人達を守った。

余所者だと言われ、熊手を向けられるほど嫌われていた俺だが、今回ばかりは、頼れる存在だと思われたのか。

助けてくれ、と縋られたり、疑って悪かったと謝ってくる者もいた。

それは結構だが、礼を言うなら、俺じゃなくてユリヴェーナにしてくれ。

お前達を守ることを望んだのは、ユリヴェーナなのだから。

彼女に頼まれなかったら、こんなことはしなかっただろう。

…それよりも。

「…あいつ、何処だ…?」

怪我人の治療が一段落して、いつの間にか戦闘音も止んでいた。

先程まで、村全体にピリピリとした緊張感が広がっていたものだが。

今は、それが嘘のように静まり返っている。

政府軍が退却したのだろう。

ひとまず、今回の襲撃は終わったらしい。

無事に終わった…とは言い難い被害が出ているが。

それより、俺が気にしていたのは…。

「ユリヴェーナは何処だ?」

俺は、手近にいた村人の青年に尋ねた。

焼け落ちた家々を見て、呆けたようにボーッとしていた青年だったが。

かろうじて少し顔を上げ。

「ユリヴェーナ様は…森の奥で戦っておられました。今は何処にいるか…」

「…そうか」

村人を巻き込まない為に、わざと森の奥に政府軍を誘導したらしい。

…もう戦闘は終わっているはずなのに、ユリヴェーナは帰ってこない。

…嫌な予感がする。

「旅人の方、どうかユリヴェーナ様を…」

「分かってる…。探してくる」

俺は杖を握り締めて、立ち上がった。

村人達は疲弊して、それどころじゃないだろうから。

俺が代わりに、ユリヴェーナを探してこよう。

何処かにいるはずだ。

「必ず連れ戻す。少し待っててくれ…」

そう言い残して、俺は一人、村の外れに向かった。

ここ一帯が、最も激しい戦闘が行われていたらしい。

土地は焼け、木々は焼け、燻った匂いが辺り一帯に立ち込めていた。

煙が目に滲みて、思わず涙が出そうになる。

「ユリヴェーナ…。ユリヴェーナ、何処だ!?返事をしろ!」

俺は森の中に入って、大声を出してユリヴェーナを呼んだ。

近くにいるなら、返事をするはずだ。

あまり、大声を出さない方が良いことは分かっていた。

もし政府軍の残党が潜んでいたら、格好の的だからだ。

しかし、俺は構わなかった。

「ユリヴェーナ!何処に…」

と、俺が叫びかけた、そのとき。

「…じゅ、りす…。ここだ…」

枯れた老人のような声が、微かに俺の耳に届いた。