神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ユリヴェーナは、村の外れにいた。

大勢の政府軍に取り囲まれ、小銃や大砲の銃口を向けられていた。

絶体絶命の危機…のように見えるが。

「…卑劣な侵略者共め。正義の名のもとに…お前達に裁きを与えてくれる!」

圧倒的に不利な状況だというのに、ユリヴェーナは少しも怯まなかった。

そして…彼女は、黒い刀身の剣を高く掲げた。

お得意の、『魔剣ティルフィング』である。

「ぐっ…。…くっ…」

魔剣の力を行使すると同時に、ユリヴェーナは苦しそうに顔をしかめた。

彼女の身体に、例の、蛇のような黒い痣が広がった。

…気のせいだろうか。

前に見たときより、痣がより濃く、そして広がっているように見えた。

「…正義の力を思い知れ…!」

苦悶の表情を浮かべつつ、ユリヴェーナは魔剣を振るった。
 
政府軍の兵士達は、魔剣の凄まじい威力を前に、手も足も出なかった。

「っ、奇怪な力を使う、魔女め…!」

魔剣に斬られて倒れた兵士が、末期の叫びとばかりに罵った。

…魔女、魔女ね。

誰よりも故郷のことを思い、仲間を守る為に我が身を犠牲にしている女が、魔女か。

…報われないな。 

「…はぁ…はぁ…」

「おい、ユリヴェーナ…」

俺は、魔剣を構えるユリヴェーナに声をかけた。

彼女はちらりと俺を見て、険しい表情を少しだけ緩めた。

「ジュリスか…」

「…俺も…俺も、手伝い…」

彼女を取り囲んでいた政府軍の一陣は、無事に撃退した。

しかし、政府軍はまだまだ余力を残している。

恐らく、この後第二陣、第三陣が控えているはずだ。

その数の敵を、ユリヴェーナは一人で捌き切れるのか…?

…だが、ユリヴェーナは俺の予想に反してこう言った。

「良かった。ジュリス、頼む。怪我をした者を助けてくれ」

…何?

一緒に戦ってくれ、ではなく。

ユリヴェーナは、負傷した村人達を助けてやってくれ、と頼んだ。

「いや、でも、お前一人じゃ…」

「ここは問題ない…。僕に任せてくれ」

脂汗かいてるのに、何が問題ないものか。

しかし、ユリヴェーナの決意は変わらなかった。

「政府軍は僕が追い返すから。ジュリスは、後ろで村人達を癒やしてやって欲しい。頼む」

「…」

「僕を手伝いたいと思ってくれるなら、頼むからそうして欲しい…」

「…分かったよ」

そこまで言うなら、引き受けよう。

…だが、これだけは言っておく。

「…死ぬなよ、ユリヴェーナ」

後味の悪い思いをするのは御免だ。

やっぱり一緒に戦っておけば良かった、なんてことになるのは。

ユリヴェーナは、相反する魔力に苦しみながらも…ふっと微笑んでみせた。

「大丈夫だ。僕は死なない」

…そうかい。

「信じて良いんだな?」

「あぁ、信じてくれ。また後で会おう」

「…分かった」

それなら、お前の望むようにしてやるよ。

余所者に助けられるなんて、村人達は望んでないかもしれないがな。

しかしユリヴェーナの頼みなら、例え余計なお世話だったとしても、村人達を助けるとしよう。

俺はユリヴェーナを置いて、村の中心に向かって走った。