イーニシュフェルトの里の賢者ってことは、実力はシルナに負けず劣らずなのだろう?

そんな天才級の魔導師が、20人近くも蘇ったら…。

最早、それだけで一国の軍隊に匹敵すると言っても、過言ではないかもしれない。

…絶望が込み上げてくるな。

「このパンダ一匹でも手に負えないのに、20匹ですか…。骨が折れますね」

「全くだな、イレース…」

パンダっていうのは、一匹や二匹いるから、可愛いなぁ和むなぁ、と思えるのだ。

これが20匹も群れを為してみろ。可愛いじゃ済まんぞ。

「今回ばかりは、聖魔騎士団の戦力を借りたとしても手に負えないかもな…」

…どうする?

ある意味、『終日組』襲来のときよりピンチだぞ。

…しかし。

「例え蘇った死体が、20人で攻めてきたとしても…まともに相手をする必要はないよ」

と、シルナ。

「何で?」

「頭を潰せば良いんだよ」

「そりゃそうだろ。ゾンビなんだから」

さっきから言ってんじゃん。

鍬とか、バールのようなもので頭を殴りつければ良いんだろ?

と思ったが、シルナが言いたいのはそういうことではなかった。

「あぁ、いや、そうじゃなくて…。操り人形を止めるんじゃなくて、操り人形を操ってる人を止めたら良いってこと」

あ、成程…そういうことか。

操り人形というのは、誰かが操ってるから動いているのであって。

誰も動かさないのであれば、それはただの人形だ。

人形そのものが、自分の意志で動いている訳じゃない。

人形を操っている誰かを止めさえすれば、必然的に人形は動かなくなる。

「ですが、そう都合良く出てきてくれますかね?」

ナジュが頬杖をつきながら言った。

「そうだな…。操ってるのが誰なのかは知らないが、迂闊に出ていけばやられる、って分かってるだろうし…」 
 
「『八千歳』の糸みたいに、物凄く遠いところから操作出来るなら、操ってる人を探すのは大変だね」

と、令月も言った。

すぐりの糸の有効射程距離は、とんでもなく長いもんな。

「いや、そんなに遠くじゃないよ。近くにいるはずだ」

「…シルナ。何でそう断言出来る?」

お前、さっきからずっと…確信を持って答えてるよな。

分かってるんだろう。イーニシュフェルトの里の族長、あのゾンビジジィの死体を操っている者。

その、正体を。

「死体を操っているのは…恐らく…ネクロマンサーだ」