…突如として目の前に現れた、その人物に。

何より驚いたのは、俺ではなく…。

「…何故…あなたが、ここに…」

シルナは呆然として、その人物を見つめていた。

正直なところ、俺はそれが誰なのか知らなかった。

ただ、シルナのこの反応を見て。

見た目以上に、ただならぬ人物が現れたのだということはよく分かった。

そもそも、このイーニシュフェルト魔導学院に無断で入り込むことが出来る時点で、充分要注意人物だ。

…誰だ、このおっさん。

おっさんと言うか…おじいさんだった。

何処か見覚えのある白いローブに見を包み、重そうな木の杖をついて、憎々しげな目でシルナを睨んでいた。

その目を見れば、俺達の敵だということは確かだ。

それに、何処からか…食べ物が腐ったような、嫌な匂いがした。

この匂いは一体…。

いや、それよりも。

「…やるか…?」

俺は杖を握って、臨戦態勢を取った。

話し合いを…受け入れてくれる様子ではないな。

こいつの実力が、どれほどのものなのか…未知数なのが恐ろしいが。

今の俺達は、およそ戦いに向いているコンディションとは言えなかった。

ナジュは死にかけて…と言うか、死んで生き返ってを繰り返している状態で、とてもじゃないが動けない。

そのナジュの治療に当たる天音も、まだ先程の怪我が癒えていない。

令月も、さっきアリスに叩きつけられていた。受け身を取ったとはいえ、ダメージはゼロではないはず。

おまけに、令月愛用の小太刀は、アリスの腕に突き刺したまま、元の世界に戻ってきてしまった。

力魔法以外使えない令月にとって、武器がないのはかなりの痛手だ。

そしてシルナは…消費しきった魔力が戻っていない上に…いちごソースまみれだ。

元の世界に戻ってきたんだから、怪我とか魔力とか武器とかいちごソースとか、リセットしてくれよ。

不親切にも程がある。

正直、俺も…「ティーセットの世界」でかなり無茶をした為、万全の状態とは言い難い。

まともに動けるのは、恐らく…イレースとすぐりの二人くらいだ。

二人の実力を疑ってはいないが、それでも…相手の力が未知数である以上、まともに戦えるのが二人だけというのは、心許なかった。

敵は、少なくともシルナを顔面蒼白にするほどの相手なのだ。

一瞬たりとも、油断は出来なかった。

「…許さぬ…」

正体不明のジジィが、憎しみを込めた声で呟いた。

…何…?