神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

普段のこの人を知らないので、今日に限って何が変わったかなんて、分かるはずもない。

…これが普通の人なら、だけど。

生憎僕は、最初から普通じゃないんでね。

「勿論分かりますよ。口紅でしょう?」

「さすがルーチェス。大正解!」

答え、心に書いてありましたから。

読心魔法使いで助かった。

今日の彼…ルレイアさんは、口紅を新調したらしい。

何でも、何とかいうアイドルとのコラボ商品だとか…。

詳しいことは知らないが、とにかく化粧品を変えてみたらしい。

男でも化粧ってするんですね。

似合ってるから、文句の一つも言えない。

「ね、ルルシー。似合うでしょう?クラシックローズの色なんですよ」

「あ、そう…。俺には全然区別がつかないよ」

駄目な彼氏だ。

恋人が化粧品を変えたら、気づいてあげるのが男の器量というものだ。

しかし、ルレイアさんは少しも気を悪くした様子はなく。

「それって、俺がいつも格好良いってことですよね?嬉し〜っ!」

めちゃくちゃポジティブですね。

幸せそうで何より。

「…」

ルルシーさんは、じとーっ、とした目でルレイアさんを睨んでいた。

成程、そういう関係ですか。理解しました。

「…ところで、ルーチェス」

「はい?」

ルルシーさんが、くるりとこちらを振り向いた。

横でルレイアさんがすりすりもふもふしているのに、普通に話しかけてくるとは。

さすが、慣れてますね。

「今日は珍しく、ドアからノックして入ってきたじゃないか」

ぎくっ。

普段は何処から入ってきてるんですか?

忍者?

ルルシーさんの心の中を除くに、普段の僕は、とんでもないところから侵入しているらしい。

令月さんとすぐりさんみたいな感じですね。

そうと知っていれば、こっそり侵入したんだけど。

「ちょっと気分転換してみました」

「ふーん…」

怪しまれ…てはいないようだが。

怪訝には思われてるようだな。

「あっ、それとも…いつも通り、違うところから入ってきた方が良かったですか?寂しかったです?やり直しましょうか?」

「アホか、そんな訳ないだろ。やり直さんで良い」

それは残念。

「それに、今日は来るの遅かったな」

ぎくっ。

よく見てますね。仲良しか。

言い訳…いかにも「普段の僕」らしい言い訳を考えなくては。
 
…そうだな。

「実は昨日、朝までベッドで元気に羽目を外し、」

「あーはいはい分かった。聞いた俺が悪かったよ」

折角考えた言い訳なんだから、聞いてくださいよ。

こちらは、全然疑われていないようだ。

いかにも普段の僕ってことらしい。それはそれで悲しい。

いやぁ、僕は清純なキャラのはずなんですけどねー。

ルルシーさんの方は、それで完璧に騙せた。

…しかし。

「…っ」

この場にいる「もう一人」の心を覗いて、僕は思わず息が止まりそうになった。