神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

通りすがりの、色々なモブの皆さんに尋ねつつ。

僕は、デカいビルの中でようやく、ルルシーさんの執務室、とやらに辿り着いた。

ふぅ、ここか。

モブの皆さんに尋ねながら、この部屋にいるルルシーさんとやらが、そこそこ偉い人なのだということは分かった。

何なら、僕より偉い立場である可能性もある。

僕自身、自分の立場がよく分かってないからなぁ。

もしかして、ルルシーさんの側近だったり?

だとしたら、舐めた態度を取ると、ぶん殴られる可能性ももあるな。

それに、ルルシーさんと一緒にいるらしい、ルレイアさんという人も。

未知の人物だが、しかし、こちらも大物であるらしいことは、ほぼ確かだった。

ルレイアという名前を口にするとき、モブ構成員の誰もが、畏怖の感情を抱いていたから。

怖いもの知らずであるはずの、マフィアの構成員すら恐れる人物…か。

実に面白そ、いや、警戒しておくに越したことはないだろう。

…では、行ってみようか。

僕はルルシーさんの執務室の扉をノックし、ガチャッと扉を開けてみた。

「お邪魔しま…、」

「ルルシールルシールルシー!見てくださいこれ!ほら!ねぇねぇルルシ〜」

「何だよ…。ウザ絡みをするな」

…なんか、あれですか。

取り込み中でした?

部屋の中には、二人の青年がべったりとくっついていた。

くっついていたと言うか…片方が、もう片方に無理矢理しがみついているようにしか見えないが…

「今日の俺、何処か違うと思いません?」

「え…?別に、いつも通りに見えるけど」

「よく見てくださいよ、ほら。今日の俺、一味違うでしょう?」

「…」

面倒臭い女子あるある、みたいな質問をしてる。

「何処が違うでしょーかっ、はい!」

「…頭の中身?」

「ぶっぶー、残念!罰として…もふもふの刑〜!」

「ばっ、くっつくな!」

…仲睦まじそうで何より。

邪魔ですかね、僕。消えた方が良いですか?

「はいっ、じゃあルーチェス!」

「はい?」

いきなり話を振られた。

「今日の俺は、何処が違うでしょうか?あなたなら分かってくれますよね?」

「…」

…それは…えーっと。

実は僕とあなた、初対面なので。

普段のあなたの姿を知らないので、何とも言えない。

ただ…予想通り、只者ではないのは確かだった。

だって、この人の服装。

この服装からして、もう只者ではない。

黒いコート、黒いシャツ、黒いネクタイ。

黒いスウェットパンツ、黒いベルト、黒い靴。

首から下げているネックレスも黒、左手に嵌めているリングブレスレットも黒。

とにかく、身につけるありとあらゆるものが、炭で塗ったように真っ黒だった。

それなのに、胸に輝く薔薇のブローチだけは青かった。

あの青い薔薇…さっき、ハンプティ・ダンプティのところで…。

…それに、その人から漂ってくる匂い。

これもまた、強烈だった。

噎せ返るような、頭がクラクラするような…オリエンタルノートの香水の香り。

一体何処で売ってるんだ、こんな服。そして香水。

その姿は、正しく妖艶な死神だった。

何だか、見た目だけで既に、危険な香りがする。

危なかったですね。

不死身じゃなかったら、逃げ出しているところでしたよ。