神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

朝食の後。

僕は、セカイお姉ちゃんに教えてもらった情報を頼りに、自分の「職場」に向かった。

「うわぁ…。…いかにも…」

辿り着いたのは、巨塔のようにそびえ立つ、何階建てなのか数えるのも億劫になりそうな漆黒のビル。

いかにも…マフィアの本拠地、って感じだ。

そう、マフィアですよ。

僕の現在の職業、マフィアなんだそうです。セカイお姉ちゃんに聞きました。

信じられるか?

元の世界では、ルーデュニア聖王国1健全で、清流のように清らかな心を持ち。

イーニシュフェルト魔導学院で、一番良識のあるイケメンカリスマ教師をやっている、この僕が。

この世界では、裏社会にどっぷり浸かっているとは。

人生、分からないものですね。

…まぁ、人に言えない後ろ暗いところがあるのは、元の世界の僕も同じだけど。

大方、『不思議の国のアリス』による、気の利いた粋な計らいなのだろう。

お茶会でアリスに会ったら、一発くらいぶん殴ってやろう。

人の心を弄ぶにも、限度ってものがある。

僕が言っても、あまり説得力を感じないかもしれないが…。

「…よし」

それはともかくとして。

まずは、この建物に入ろう。

自分の職場とはいえ、マフィアの拠点に単身乗り込むとなると、ちょっとわくわ、いや、緊張しますよね。

入った瞬間、マシンガンで蜂の巣…なんてことはないよな?

僕はマフィアを何だと思ってるのか。

まぁ、マシンガンで蜂の巣にされたところで、それで死ぬ僕じゃないが。

爪を剥がされようが、薬漬けにされようが、切り刻まれようが、銃弾でぶっ飛ばされようが。

どうやったって死なないのだから、堂々と胸を張っていよう。

「おはようございます」

真正面の入り口から、堂々と入り込む。

さぁ、どうなるだろう?

エントランスには、黒い服を着て、黒いサングラスをかけた、強面のお兄さん達がうろうろしていた。

うわぁ、いかにもって感じだ。

何だかもう…絵に描いたようなマフィア。実にいかつい。

こんな集団に取り囲まれたら、さすがの僕も、命の危機を感じますよ。

…一秒だけね。

いや、だってほら、僕死にませんから。

怖いものなし。

しかし、僕が取り囲まれることはなかった。

強面のお兄さん達は、僕に拳銃を向ける代わりに。

90度に腰を折って、声を揃えるようにして、大声で挨拶してきた。

「おはようございます!」

「おはようございます、ルーチェスさん!」

「ルーチェスさん、お疲れ様です!」

…おぉ。

こんな強面のお兄さん達に、揃って挨拶してもらうとは。

何だろう。何だか、自分が大物になった気分。

実際、この世界で…そして、このマフィアの中で、僕は…そこそこの大物であるらしい。

成程ね。

やっぱり僕は、どんな世界にいても、只者じゃないってことだな。

滲み出る、強者のオーラって奴だ。

いやぁ罪深い、罪深いですよ。

ともあれ、襲われなくて良かった。

どうやら、普通に話しかけても問題なさそうだ。