神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

丁寧に触診して、よく分かった。

僕の目の前にいる、このリリスそっくりの女性。

セカイお姉ちゃんという、この人は。

僕の中にいる、僕の愛しい恋人と…同一人物である。

…と、言っても過言ではない。

しかし、リリス本人ではない。それははっきりしていた。

その理由は…言うまでもないだろう?

だって、僕のリリスは魔物で、この人は魔物じゃない。ただの人間だ。

至ってシンプルな理屈だろう?

いくら見た目が全く同じで、触り心地も同じだと言えど…自分の恋人を間違えたりはしないですよ、僕は。

可愛いのは確かだけど。

「全くも〜…。いきなりどうしちゃったのさ、ルーチェス君ったら」

この通り、僕のことをルーチェス君呼びしてるしな。

リリスだったら、ナジュ君と呼ぶはずだ。

リリスであって、リリスではない人…。

…やはり、『不思議の国のアリス』が作り出した副産物なのだろう。

全く、粋なことをしてくれるよなぁ。楽しくなってきたじゃないか。

俄然、この世界に興味が湧いてきた。

少なくとも、あの忌まわしい、賢者の石の作った異次元世界よりは数倍マシだな。

リリスのそっくりさんがいるというだけで、精神衛生に大変良い。

「…ねぇ、ルーチェス君」

「はい?」

ルーチェス君と呼ばれるのは慣れないが、たまには新鮮で良いかもしれない。

「その頭の帽子、どうしたの?」

「…あー…」

うん。これね。

僕も気になってるんだけど…外そうと思っても外せないんですよ。

「それもあれ?師匠さんの趣味なの?」

師匠?

「これですか…これはですね…。世界的な事情と言いますか…」

「へ?どういうこと?」

「狂った帽子屋の世界」だから、仕方なくって言うか…。

…そうだな。

「…僕の新しいチャームポイントってことです」

「成程!そうなのか〜」

それで納得するんですか。

さすが、性格がリリスそのものだな。

「ところで、セカイお姉ちゃん」

「何だい、可愛い弟君よ」

何その呼び方。新鮮で素敵。

新たな性癖に目覚めそう。

「僕も一つ、気になってることがあるんですけど…聞いても良いですか?」

「うむ。何でも聞いてくれてよいぞ」

「ありがとうございます」

それじゃ、遠慮なく。

僕は、ダイニングテーブルの上の消し炭を指差した。

「何なんですか?この消し炭」

「よくぞ聞いてくれた。これはね…今日の朝ご飯です」

「…」

…成程。

この、セカイお姉ちゃんは…どうやら、非常に個性的な味覚の持ち主らしい。