神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

庭師のお兄さんの言った通り。

白ウサギは、りんごの木に登って呑気に昼寝していた。

猫みたい。

ウサギって、木に登ることあるんだろうか。

まぁ、犬もおだてれば木に登るらしいし。

もしかしたらウサギも、おだてたら木に登るのかも。

…それはそれとして。

「よし、じゃあ…試してみようか」

僕は、いちごミルフィーユ村でもらってきた、例の切り札を、そっとかごから出し。

りんごの木の下に、お供えしておいた。

…え?切り札って何かって?

ケーキだよ。

学院長の好きなチョコケーキじゃなくて。

ウサギが大好きな、キャロットケーキ。

これをお供えしておくことによって、白ウサギがホイホイ釣られる…らしいのだが。

正直、僕は半信半疑だった。

あれほど追いかけても捕まらなかったのに、こんなキャロットケーキくらいで釣れるのだろうか。

でも、学院長だって…チョコケーキには釣られるもんな。

もしかしたら、白ウサギも捕まえられるかもしれない。

「これで良し…と。じゃあ、あっちで様子見よっか」

「そうだね」

僕と『八千歳』は、反対側にある木の陰に隠れて様子を窺うことにした。

すると、ものの数分足らずで。

白ウサギが、匂いに釣られたかのように、ひょこっと身を起こした。

お?

そして、木の下にお供えしているキャロットケーキを発見するなり。

脇目も振らずに、一目散に木から降りてきた。

白ウサギがキャロットケーキに辿り着く…その寸前。

「よっと」

キャロットケーキの周囲に張り巡らせていた、『八千歳』の糸が。

白ウサギの後ろ脚を縛り上げ、その場に吊るした。

「…」

「…」

僕と『八千歳』は、無言で顔を見合わせた。

…今までの追いかけっこは何だったんだろう、と思うほど…あっさり捕まってしまった。

キャロットケーキの威力、恐るべし。

騙したな、とばかりに、じたばた暴れる白ウサギ。

残念だったね。

一度『八千歳』の糸に捕まったら、もう二度と逃げられないよ。

僕でさえ無理なのに、ウサギごときでどうにかなるはずがない。

「…やっと捕まえたね」

何にせよ。

これで、追いかけっこはもうおしまいだ。

隠れるのをやめ、木の陰から出て…僕達は白ウサギの前に姿を現せた。