神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「どうも、黒い影とやらが出没する箇所は、第二稽古場だけではないようですよ」

と、ナジュが言った。

何?

「色んな場所が噂になってるんですよ。第二稽古場だけじゃなくて、食堂、図書室、実習室、教室、階段…。果ては職員室付近で見たって噂もあるみたいですね」

「そ、そんなに…?職員室にまで出るのか…?」

そこまで色んな場所に出てきてるなら、もう、校内何処にいても不思議じゃないな。

「俺も糸魔法使って、色んな生徒が話してるのを盗み聞きしたけどさー」

盗み聞きはやめろよ。

いや、勝手に人の心を読むのもアウトだけどさ。

「どうも、一箇所に定まらないんだよね。色んなところで目撃情報が出てる。校内に安全地帯はないね」

マジかよ。

じゃあ、もしかして…。

「はい。学院長室にも、目撃情報があるみたいですよ」

まさかと思った俺の心を読んで、ナジュがそう言った。

「えぇぇぇぇ!」

勿論、今叫んだのはシルナである。

「盛り塩!盛り塩、盛り塩!」

必死になって、学院長室の四隅に塩を置いていた。

まぁ、あれだ。

あくまで噂になってるってだけで、本当に学院長室に、あの黒い影が出てきたのかというと…それは不明だな。

むしろ、噂になっていない場所を探す方が難しいくらいだし。

すぐりの言う通り、安全地帯はないと思った方が良い。

「実際俺達が見たのも、第二稽古場じゃなくて…正しくは、第二稽古場の渡り廊下だったもんな」

第二稽古場に限らず、黒い影の出現ポイントは、校舎内なら何処でも、ってことなんだろう。

恐ろしいことに。

盛り塩ぐらいで、どうにかなるのかは分からないな。

校舎の四隅に盛り塩をすれば、効果はあるんだろうか?

「何処に出てくるのか分からないんじゃ、何処に罠を仕掛ければ良いのかも分からないや…」

と、難しい顔の令月である。

幽霊って、そんな獣みたいに罠で仕留めるものだっけ?

まぁ良いか。

「出現する場所もそうですが、出現する条件や対象も見つけなくては」

「条件か…。そんなのあるのか?」

「分かりませんね。とにかく、再び会ってみないことには分かりません」

盛り塩が効くのかどうかも、試してみなければ分からないな。

「深夜のパトロールは継続。生徒達には、何も心配せず、目の前の授業に集中するよう伝えよう」

「…学院長がこれほど狼狽えてるんじゃ、集中するものも集中出来ませんけどね」

生徒の手本となるべき学院長が、生徒よりも、誰よりもビビりまくってんだもんな。

その分、俺達が代わりにしっかりしよう。