神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ようやく解放してもらえたので。

僕と『八千歳』はおばさんに別れを告げ、いちごミルフィーユ村を出た。

目指すは、先程おばさんに教えてもらった、公爵夫人の庭、とやらである。

「これが何かの役に立つのかなー?」

『八千歳』は、先程もらったばかりの木のかごを見て、胡散臭そうにそう言った。

…分からないね。役に立つのかは。

「でも、手ぶらで臨むよりマシだよ、きっと」

「まぁ、そうだけど…」

それに僕達は今、恐らく。

この世界の筋書き通りに進んでいる…と考えて良いだろう。

トントン拍子に話が進むし、何だかんだ、行く先々で「次に行く場所」を教えてもらえる。

これで何も教えてもらえなくなったら、そのときが「詰み」だ。

行動指針を示してくれるだけ、親切な設計と言えるだろう。

ということは多分、さっきおばさんにもらった、この木のかごも。

きっと、この世界から出る為に役に立つのだろう。

そう思おう。今のところは。

「…で、公爵夫人の庭っていうのは、こっちで合ってるの?」

「うん。このまま真っ直ぐ南に向かえば良いって、さっき出掛けにおばさんが…」

…と、僕が言いかけたそのとき。

待ってましたとばかりに、視界の隅に白ウサギが現れた。

来た。

ということは、僕達の行動は正解って訳だ。

「『八千歳』、早速あれ、使う?」

さっきおばさんにもらった、これ。

しかし。

「…いや…さすがに距離が遠過ぎるんじゃないかなー」

「…だよね」

一度しか使えない手なのだから、使い所は見極めなければならない。

白ウサギは鼻をひくひくさせながら、こちらをじっと見つめてはいるものの。

僕達が一歩踏み出せば、すぐさまそっぽを向いて駆けていってしまった。

…この切り札を使っても…立ち止まってくれそうにはないな。

…分かった。

「使い所を探しながら、追いかけてみよう」

「そーだね」

一定の距離を保ったまま、僕と『八千歳』は、白ウサギを追いかけた。

これだけ走っているのに、白ウサギとの距離は離れるばかりだった。

かろうじて目視出来る距離だが、しかし、切り札を使える状況ではない。

ただひたすら、白ウサギを見失わないよう追いかけるのが精一杯だった。

そして。

「…ここは…」

白ウサギを追いかけて、辿り着いたのは。

高い塀に囲われた、大きなお屋敷だった。

もしかして…ここが、公爵夫人の屋敷なのだろうか?