神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

この世界には、やはり夜という概念はないようで。

これまた三時間ほどかけて、村中をぴっかぴかに掃除した後も…日が陰るということはなかった。

この世界に来てから、もうだいぶ時間が経っているから…。もし夜明けの時刻に辿り着いたのだとしても、そろそろ夜が来ないとおかしい。

でも、僕達がこの世界に来てから、太陽の位置は少しも変わっていなかった。

一日中太陽が動かないなんて、色々な問題が起きそうな気がするけど…。

それでもこの世界は、上手く回ってるんだよね。

どうなってるんだろうなぁ。

…どうなっている、と言えば。

目の前の光景も、相当どうかしてるよね。

僕と『八千歳』が二人で集めたゴミ袋は、十個近くがパンパンになっていた。

よく頑張ったなー。

学校でも僕達、こんなに掃除したことないよ。

…で、この世界で「ゴミ」と言うと…。

「うん、よく集まったね」

「…」

仁王立ちおばさんは、満足そうにゴミ袋を見つめていたけど。

僕と『八千歳』は、何となく釈然としなかった。

だって僕達の目の前にあるのは、ゴミと称した…宝石の山だ。

大きなゴミ袋に、色とりどりの宝石がみっしりと詰まっている。

雑な扱いだ。

これだけ見たら、今から宝石を密輸するのかなって思われそう。

違うんだよ。

だってこれ、ゴミだから。

「よいしょ…っと」

おばさんはゴミ袋を掴み、焚き火の中に「ゴミ」…つまり宝石…を捨てた。

宝石を、ゴミとして焼却してしまうなんて。

宝石屋さんが見たら、卒倒しそう。

仕方ない。これが文化の違いだ。勿体ないけど。

…それよりも、気になるのは。

「ねーおばさん。言われた通りゴミ拾いしたんだから、白ウサギと招待状について、知ってることを教えてよ」

僕と同じことを考えていた『八千歳』が、おばさんに尋ねた。

「招待状?」

「お茶会の招待状だよ。何か知らない?」
 
時間をかけてここまでしたんだから、「何も知らない」と言われたら、拍子抜けだよね。

せめて、少しでも何か情報を…。

すると。

「招待状かは知らないけど…この間、白ウサギが何かの封筒を咥えてるところを見たよ」

と、いちごミルフィーユ村のおばさんは言った。

「…!」

…それって。

「じゃあ、その白ウサギは何処にいるの?」

「そうだね…。最近は、公爵夫人の屋敷の方でよく見かけるね。どうやら、公爵夫人の庭に出入りしてるようだよ」

「…」

意外とこのおばさん、情報通だった。

助かるけど、出来ればそういうことは、もっと早く教えて欲しかったな。

時間を無駄に浪費した気分だよ。

公爵夫人…確かこの「ミルフィーユの丘」も、公爵夫人の領地なんだっけ?

誰かは知らないけど…。

「分かった。行ってみるよ」

「あんた達、あの白ウサギに用があるのかい?」

「?そうだけど…」

「そう。じゃ、ちょっと待ってておくれ」

おばさんはそう言って、家の中に入り。

「これを持っていくと良いよ。ここぞというときに使ってみな。きっと、白ウサギを捕まえるのに役立つはずだよ」

おばさんは、木のかごに入った「それ」を分けてくれた。

…面倒なガミガミおばさんだと思っていたら。

予想以上に優秀なおばさんで、びっくりした。