神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

僕も『八千歳』も、それほど本気で追いかけはしなかった。

どれだけ追いかけても、白ウサギを捕まえることは出来ないと、何となく察しているからである。

案の定白ウサギは、一定の距離を保ったまま、それ以上は決して近寄れなかった。

心の距離、遠いなぁ。

それどころか。

「…いない」

途中で、追いかけてきた白ウサギの姿が見えなくなった。

忽然と消えてしまったかのようである。

多分、そういう「仕様」と言うか、「設定」と言うか、「筋書き」と言うか…。

要するに、僕達にはまだ、あの白ウサギを捕まえることは出来ないのだろう。

…それよりも。

「…家があるね」

「うん。村なのかなー?」

白ウサギを追いかけて、辿り着いたのは小さな村。

家々が点々と建っていて、生活感がある。

さっき僕達が見つけた家は、クッキーやらスティックチョコなど、あらゆるお菓子で出来たお菓子の家だったけど…。

こちらは「ミルフィーユの丘」というだけあって、全ての家がミルフィーユで出来ている。

壁も屋根も、玄関先のポストさえ、ミルフィーユで出来た家。

これもこれで、美味しそう。

でも、見た目がミルフィーユなだけで、食べてみたらまた別のお菓子の味がするんだろうな。

今度は何だろう…醤油せんべいとか?

まぁ、良いか。

村があるのは有り難い。

「ちょーどいーや。この村で聞いてみようよ」

と、『八千歳』が言った。

「うん。白ウサギのことと…それから、招待状のことも聞いてみようか」

何か有益な情報を得られるかも。

そう思って、僕と『八千歳』が村に足を踏み入れた、そのとき。

僕の懐に入れていた、ドーナツの薄い包み紙が、はらりと落っこちた。

「おっと…」

落とした包み紙を拾おうとしたら、丁度強い風が拭き。

包み紙ははらりと宙を舞って、ミルフィーユの家の軒先に飛ばされた。

あぁ、包み紙にまで逃げられる。

追いかけて、包み紙を拾おうとした僕の前に。

玄関先でお掃除中だった村の住人が、突然大声をあげた。

「こらっ!あんた達、そこで何してるんだい!」

竹箒を持った太り気味のおばさんが、僕の前に仁王立ち。

びっくりした。

「何って…。僕達ちょっと人探しを…いや、ウサギ探しをして…」

と、言おうとしたのだが。

「人の家の前にゴミを捨てるなんて、マナーのなってない子達だね!」

…拾おうとしたのに。

何故か説教をされた。

…何だろう。凄く面倒臭いことになる予感。