神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

『八千歳』と共に、僕は「ミルフィーユの丘」を目指して、南に向かって歩いた。

再び、白ウサギと招待状探しの旅が始まる。

「この世界には、夜も朝もないんだねー」

虹色の川に沿って歩きながら、『八千歳』が言った。

そうだよね、やっぱり。

僕が気づいているんだから、『八千歳』も当然気づいているよね。

常夏ならぬ、常昼?

夜が来ないってことは、昼より夜の方が活動的になれる僕達にとっては、不利な状況だよね。

「太陽が動いてないからって、時間が経過してない訳じゃない」

「そりゃ勿論。招待状?とやらの制限時間は、今も刻一刻と減ってるんだよねー」

空が暗くならないから、つい忘れてしまいそうになるけど。

こうしている間にも、制限時間は迫ってきている。

あまり悠長にはしていられないね。

…でも。

さっきもらったドーナツ、食べるくらいの時間はあるよね。

「食べながら歩こっか。折角だし」

「そーだね」

食べなくても死ぬ僕達ではないけど。

道中ドーナツでも食べながら、気楽に行こう。

焦って良いことなんて何もない。

懐から、薄い紙に包まれたドーナツを取り出す。

「僕のはプレーンだね」

「俺はチョコだ」

二人で味が違うんだ。

まぁ、どっちでも良い。

「もぐもぐ」

口に入れてみると、これまた不思議。

プレーンドーナツのはずが、舌に伝わる味はドーナツではなく。

以前学院長が食べさせてくれた、スイートポテトの味。

不思議。

ってことは、『八千歳』のチョコドーナツも…。

「『八千歳』。それ何の味?」

「ポップコーンみたいな味がする」

ポップコーン味のチョコドーナツ。

ちぐはぐだなぁ。

「悪い味ではないけど、変な感じだなー。『八千代』も食べてみる?」

「うん。僕のもあげるよ」

二人でドーナツを半分こして、僕もチョコドーナツを味わってみる。

本当だ。ポップコーンの味。

どうなってるんだろうね、これ。どんな作り方したら、こうなるんだろう。

もしかして「ミルフィーユの丘」っていうのも、お菓子の家みたいに、その名の通りミルフィーユで出来た丘なんだろうか。

…すると。

「…!『八千歳』、あれ」

「おっと、いたねー」

ドーナツを頬張っていた、僕達の前に。

例の白ウサギが、草むらから顔を覗かせていた。

早速見つけた。

ってことは、ここはもう「ミルフィーユの丘」の近くなのかな。

僕と『八千歳』は、食べかけのドーナツを懐に戻し。

すぐさま駆け出して、白ウサギを追いかけた。

白ウサギは、僕達が追いかけてくるのを確認して、走って逃げ出した。

やはり、ここで僕達を待ち構えていたらしい。

白ウサギが逃げていった先は、件の…小高い「ミルフィーユの丘」であった。