神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

ナジュの言う、呼んでも来ない…というのは。

「そりゃ勿論、例の黒い影ですよ」

だよな。

結局あれ以来、ナジュと天音が黒い影を見る機会はない。

何なら俺達も、あれ以来黒い影の姿を拝んでいない。

深夜のパトロールは続けているのだが、何も出てこないのだ。

こう何日も何もないと、やっぱりあれは夢だったんじゃないか、という気がしてくるが…。

夢じゃないんだよな。

イレースも、令月もすぐりも、シルナも見たんだから。夢じゃない。

「さっき天音さんと、こっくりさんやったんですよ」

と、ナジュはとんでもないことを言った。

「は?何でそんな危険なことを?」

「幽霊が出てくるかと思って」

お前、自分が死なないからって、無茶をするなよ。

そして、天音を巻き込むな。

「でも、駄目でした。何も起きませんでしたね。ねぇ天音さん」

「うん…。僕は、何も起きなくて良かったと、心から思ってるよ」

だろうな。

ナジュの奴、「この藪にはヘビがいる」と分かるや否や、ヘビが出てくるまで藪をつつくつもりか。

さすが、イーニシュフェルト魔導学院の命知らず代表だな。

と、そのとき。

「やっほー」

「来たよ」

「うぴゃぁぁぁぁっ!!」

シルナの背後の窓から、元暗殺者組の二人がよじ登ってきた。

…お前ら…普通に来いよ。

何で、窓を玄関代わりに使ってるんだ。

情けない悲鳴をあげたシルナが、盛り塩をひっくり返しながら、俺に飛びついてきた。

あーあ…もう…。

「…?学院長、どうしたの?」

どうしたのじゃねぇ。お前らのせいだよ。

「どう?不死身せんせー。お化け見た?」

「見てません。何処にいるんですかそいつは」

「そっかー。俺も探してるんだけどなー。なっかなかいないんだよねー」

そう頻繁に出てこられたら、それはそれで困るけどな。

ナジュが言った通り。求めてるときには来ないんだよ。

呼んでないときは、あっさり来るのにな。

「って言うか…結局あの黒い影、何処に現れるのか分かんないんだよね」

「あ、それは僕も同感です」

すぐりとナジュが、気になることを言った。

…何処に現れるか…って。

「出てくるのは、第二稽古場じゃないのか?」

最初から噂になってただろ?第二稽古場。

「いえ、それが、そうでもないんです。会う生徒の心を読みまくってるんですが」

「うん。俺も糸魔法を張り巡らせて、『聞き込み』してるんだけど…どうも、情報が錯綜してるんだよね」

…情報が錯綜してる、だって?