―――――放課後。

五年生の女子生徒三人組が、廊下を横切る「その人物」を見つけた。

「あ、学院長先生。こんにちは〜」

「こんにちは〜」

「その人物」…学院長シルナ・エインリーに声をかけると。

「…」

シルナは、無言でゆっくりと女子生徒を振り返った。

「丁度良かった。私達、これからおやつもらいに行っても良いですか?」

女子生徒の一人が、悪戯っぽく笑って、そう聞いた。

シルナがいつも、放課後の学院長室に生徒を呼び。

チョコレートやらお茶やら、何かしらのおやつを振る舞っていることは、イーニシュフェルト魔導学院の生徒なら誰もが知るところ。

ましてやこの三人組は、もう五年生。

おやつ目的で学院長室を訪ねても、全く罰されないどころか。

むしろ、来訪を歓迎され、喜んでお菓子を振る舞ってもらえることを知っている。

こんなフランクな会話は、イーニシュフェルト魔導学院では珍しくないのである。

だからこそ、この三人も、きっと喜んでシルナが学院長室に迎えてくれると思っていた。

…しかし。

シルナから帰ってきた返事は、三人の予想を大きく裏切るものだった。

「駄目だよ、そんなこと」

シルナは、笑顔でそう言った。

「え…」

「忙しいんですか?今日…」

面食らった三人が、驚いた顔をしていると。

そんな三人に、シルナは言った。

「学院長室は、君達の遊び場じゃないんだよ。君達も学生なら、遊んでる暇があったら少しは勉強しなさい」

「…」

「…」

「…」

シルナらしからぬ、この発言に。

三人共、思わず絶句してしまった。

そして、何事もなかったように立ち去っていく、シルナの背中を見て思った。

「…学院長先生、一体どうしちゃったの?」と。