神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

トランプ兵に案内させ、私は侵略戦争の最前線に辿り着いた。

前線では、少しくらい抵抗しているのかと思えば。

ハートの国のトランプ兵は、終始逃げ腰。

槍を持っている癖に、右往左往と逃げ惑うばかりだった。

女王にそっくり。

中には、槍を投げ捨てて逃げる兵隊も。

敵前逃亡ですか。

そりゃあ、侵略もされるでしょう。こんな情けない国。

一方、ダイヤの国の兵隊…こちらもトランプ兵…は、イケイケドンドンで攻め込んできていた。

全く抵抗されないのだから、そりゃイケイケドンドンにもなるでしょう。

何の障害もないも同然。
 
このままの勢いで、あっという間に、ハートの女王がいる王都にも辿り着くだろう。

こんな無能国家は、やはり他国に侵略された方が良いのでは、と思ったが…。

招待状を手に入れる為には、私はこの国を守らなければならなかった。

「うわぁぁ、来た!」 

「も、もう無理だ…!」

「逃げろ、逃げるんだ!」

槍を投げ捨てて、半泣きで逃げ惑うハートの国のトランプ兵。

と。

「進め、進め!」
 
「敵は及び腰だ!畳み掛けろ!」

「口ほどにもない奴らめ!」

槍を持って、逃げ惑うトランプ兵を追い込む、ダイヤの国のトランプ兵。

…どちらが優勢かなど、言うまでもない。

全く情けない…。

…それどころか。

「ふふふ。ハートの国、こんなに容易いとは思いませんでした」

立派な鞍に乗った、ダイヤの国の女王が。

最前線の戦いぶりを見て、満足そうに扇子で扇いでいた。

…侵略国の王が、最前線に視察に来るとは。

馬鹿なんだろうか。

誰かが、あのダイヤの国の女王に特攻攻撃を仕掛ければ。
 
それだけで、この侵略戦争は終わるのでは?

…しかし、当然ながら…ハートの国のトランプ兵に、そのような度胸がある者はおらず。

敵国の女王を前に、半泣きで逃げ惑うばかりだった。

…全く、情けないことこの上ない…。今日だけで何度思ったことか。

これが、自国を守る兵隊の姿ですか。

…仕方ありませんね。

「も、もうおしまいだ…。ハートの国は終わりだ…!」

「…ちょっと退きなさい」

頭を抱えるなら、よそでやりなさい。

私は逃げ惑うトランプ兵を押し退けて、戦いの最前線に進んでいった。

「…何だ?この女…」

「ハートの国の兵隊じゃないのか…?」

私の姿を見て、首を傾げるダイヤの国のトランプ兵。 
 
しかし。 

「構わねぇ。やっちまえ!」

「そうだ、そうだ!」

相手が他国の民だろうが、兵隊ではなかろうが、目の前に立ち塞がるなら敵、と思っているらしく。

ダイヤの国のトランプ兵は、槍の矛先を私に向けた。

同じトランプ兵でも、ここまで性格が違うとは。

随分と血気盛んですね。

…しかし、無能であるという、その一点に関しては。

ハートの国もダイヤの国も、変わらないようですね。

…勝てない相手に武器を向ける、その行為がいかに無謀であるか。

…それを教えてあげましょう。

「食らえっ!やーっ!」

槍をこちらに向け、突進してきたトランプ兵の、脳天に。

私は、渾身の…肘鉄を食らわせたのだった。

バキッ!と、何かが砕けるような音がして、兵隊はその場に崩れ落ちた。

…何が砕けたのかは…どうでも良いことですね。