神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

何ですか、この兵隊。

身体がトランプなんですが。

これが、先程女王が言っていた、トランプの兵隊という奴か…。

いかにもメルヘンではあるけれど、これほど青ざめていたら、とてもメルヘンには見えない。

「ど、どうしたのですか?」

「大変です、女王様…!だ、ダイヤの国が…」

と、トランプ兵はおたおたしながら報告した。

報告くらい、冷静に行えないのか。

兵隊失格だ。

…ん?ダイヤの国?

ダイヤモンドが原産の国だろうか。

随分金持ちな国のような気がしますね。

「ダイヤの国が、どうしたと言うんです?」

「は、ハートの国に、せ、攻めてきたんです!」

トランプの兵隊は、顔を青ざめさせ、この世の終わりみたいな声でそう報告した。

…何ですって?

これには、ハートの女王も血の気が引いたようで。

愕然として、わなわなと震えていた。

「そ、そんな…!せ、攻めてきたって…」

「こ、国境を越えて…ダイヤの国の兵隊が攻めてきたんです。既に、国境近くの街がいくつも、ダイヤの国に占拠されて…!」

「な…なんてこと…!」

…。

侵略戦争という奴だろうか。

それはご愁傷様でしたね。

「ダイヤの国の軍隊は、少しずつ…この王都にも迫ってきています。じょ、女王様。どうにかしてください…!」

トランプ兵は、すっかり戦意喪失したように、女王に縋りついていた。

…何を馬鹿なことを。

あなたが片手に持っている、その槍は飾りですか。

戦いなさい。それでも兵隊ですか。

この女王あって、この兵隊ということなのかもしれない。
 
ほら、言ったでしょう?

上に立つ者が無能だと、組織全体が腐敗するんですよ。

そして、このような非常事態に陥ってもなお。

「あ、あ、あぁ…。ど、どうしましょう、どうしましょう…」

…出た。伝家の宝刀。

ハートの女王は、トランプ兵と一緒になって、頭を抱えていつもの口癖。

情けないことこの上ないですね。