神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

舞踏会は、無事に終わった。

いえ、私は参加していないので、本当に無事だったのかどうかは知りませんけど。

いずれにしても、私にはどうでも良いことだ。

それより、さっさと招待状を用立ててもらいたい。

…ところだったが。



「あぁ、どうしましょう。どうしましょう」

ハートの女王の悩み事は、舞踏会から一夜明けても健在だった。

「…今度は何ですか」

この人はあれか。

常に何かに頭を悩ませていないと、むしろ落ち着かないタイプか。

面倒極まりない性格だ。

「どうしましょう、どうしましょう…。実は、私の臣下達が、言うことを聞いてくれないんです」

…それは由々しき事態ですね。

臣下が言うことを聞かないなんて、女王の名が泣く。

「…ところで、言うことを聞かないあなたの臣下というのは?」

「死刑執行人です」

なかなか物騒な臣下をお持ちで。

私は『不思議の国のアリス』に詳しくないけれど…そんな登場人物が出てくるのだろうか。

一体どんなシチュエーションで登場するんだか。

しかし、死刑執行人が言うことを聞かないとは…不届き者ですね。

「トランプの兵隊の首を刎ねるよう命じても、言うことを聞いてくれないんです」

むしろ、そのトランプの兵隊は何をしたんですか?

言うことを聞かない死刑執行人より、トランプ兵の罪状の方が気になりますね。

「それに…言うことを聞いてくれないのは、死刑執行人だけではないんです」

余程人望がないんですね、あなた。

女王なのに。

「ハリネズミも、私の言うことを聞いてくれないんです」

ハリネズミなんか出てくるのか。

「そして、フラミンゴも」

フラミンゴまで。

『不思議の国のアリス』というのは、さながら動物園ですね。

「ウミガメも、私を無視して好き勝手していますし…」

水族館も併設。

「それからグリフォンも、私の指示を聞かずに好き勝手するんです」

…グリフォン?

これは人名だろうか…それとも生き物の名前?

空想上の生き物だろうか。

いずれにせよ、おとぎ話に出てくるキャラクターの一人なのだろう。

「とにかく、皆私の言うことを聞いてくれないんです。あぁ…どうしましょう、どうしましょう…」

「…」

…イラッ。

うじうじうじうじと…面倒なハートの女王ですね。

そんなに自信も、ついでに人望もないなら…女王なんてやめてしまえば良いんです。