むかっ腹の立つ猫のことは、放っておくとして。

この雑然とした部屋。

…本当に、全部ゴミ箱に叩き込みたくなりますね。
 
何十というドレスがハンガーにかけられ、林のように並んでいる。

もしかしたら、3桁あるかもしれない。

更に、ドレスだけではなく。

靴の入った箱や、帽子。

果てはネックレスや指輪など、アクセサリーの類まで。

ここにある装身具だけで、ブティックを開けるんじゃないかと思うほど。

…しかも。

私は、服やアクセサリーの良し悪しなど分かりませんが…。

これは、かなり高級品なのでは?

それこそ、ルーデュニア聖王国の女王、フユリ・スイレン女王が身につけるような…。

このお高い衣装やアクセサリーの山は、一体誰のものなのか…。

甚だしく金の無駄遣いですね。

絶対、こんなに着ませんから。

十分の一くらいに減らしても、全然困らないと思います。

全く、あのパンダ学院長と言い、この部屋の持ち主と言い…。世の中、無駄が多過ぎる。

大体、こんな意味不明な世界に送られて、何処にあるか分からない招待状を探してこい、などと…。

もうこの時点で、時間の無駄遣いでしかない。

時間は有限であり、それゆえ黄金の価値があるものだと、子供の頃学ばなかったんでしょう。

…ちっ。

心の中で舌打ちしながら、何足にも及ぶ靴の箱を開けては、中を確認する。

しかし、招待状など影も形も見つからない。

…それほど甘くはない、という事なのだろう。

…ちっ。

舌打ち二回目。

それは舌打ちしたくもなる…。

突然、こんな意味不明な世界に送り込まれたら…。

…そのとき、私は小さなメモを見つけた。

「ん…?」

ドレスのポケットの中に、小さな紙片が入っている。

お店で買ったときのタグ…ではなさそうだ。

まさか、これが招待状?

なんとも味気のない招待状だが…。

私は紙片を引っ張り出し、折りたたまれたそれを開いてみた。

それは、招待状ではなかった。

ただ一言、赤い鉛筆でこう書いてあった。

「help me」と。

「help me」…助けろって意味ですね。

そういえば、ここに来る前…あのデブのハンプティ・ダンプティが言っていた。

書いてあることには従え、と。

何のことだと思っていたが…まさか、これのこと…?

助けろって…一体何を?誰を?

そのとき。

ガチャッ、と衣装部屋の扉が開いた。

「あぁ、どうしましょう。どうしましょう」

派手な、ハート模様の赤い色のドレスに身を包み。

ドレスとお揃いの、赤いミュールを履いて。

キラキラと光る、黄金のティアラを頭に乗せた女性。

…何処からどう見ても、その姿は。

『不思議の国のアリス』に出てくる登場人物。

そう、私が引いたトランプの絵柄にもなっていた…ハートの女王、そのものだった。

…いきなり、真打ち登場、といったところでしょうか? 

良いですよ、別に。受けて立ちます。

女王だろうが何だろうが…私の敵として立ち塞がるなら、排除するまで。

私はいつでも応戦出来るよう、片手に杖を握り締めた。