…外の景色に負けないくらい、気色悪い猫だった。

毛並みが赤とピンクなんですが。あれは雑種ですか?

…それとも…『不思議の国のアリス』に登場するというキャラクター。

名前は確か…チェシャ猫?

あんなに気持ち悪い生き物だったのか。チェシャ猫。

そのふざけたにやけ面は、シルナ学院長と良い勝負。

思わず殴りかかりたくなったけれど、今はそんなことをしている暇がない。

…と言うかこの猫、今。

私のこと、嘲笑いませんでした?

…やっぱり殴ろうかしら。

それくらいの時間の余裕は、あるような気がしてきた。

「…高みの見物は面白いですか?」

私は、チェシャ猫に向かってそう尋ねた。

返事を期待している訳ではない。

たかが猫に、人語が喋れるとは思っていない。

だからこれは、単なる私の独り言のようなもの。

「…誰か一人でも、招待状を見つけられずに泣き寝入りする者がいると思ってるなら、おめでたいですね」

嘲笑う相手を間違えたようですね。

こんな下らない魔法道具の作り出した、仮初めの世界など。

我々を足止めする、何物にもならないのだということを…教えてあげますよ。

にやにやとこちらを見つめるチェシャ猫に、くるりと背を向け。

私は、再び探しものに戻った。

…気がつくと、チェシャ猫の姿は何処かに消えていた。

悔し紛れに逃げ出したのでしょうか。それとも、私に無視されたことが気に入らなかったのか。

どちらでも構いませんね。