「で、皆さんが見た幽霊って、どんな形だったんですか?」

「さっき、黒い影って言ってたけど…。黒い影の幽霊だったの?」

この場で、幽霊を目にしていないナジュと天音が尋ねた。

そうだな…。

「幽霊と言うと、髪の長い白い服を着た女が…。みたいなのが定番ですけど」

「そ、それは…漫画やドラマの話じゃないの?」

そもそも、ここは学校だからな。

出てくるとしても、制服を着た子供の霊じゃね?

いや、あの黒い影の正体が、子供だったかどうかは分からないんだけど。

「噂通り、黒い影の幽霊だったよ」

「ふーん…」

「黒い影…。何だかはっきりしないね」

全くだ。

人影だけじゃ、正体が分からないじゃないか。

「黒ですか…それが白だったら、オーブの可能性もあるんですけどね」

お、オーブ?

あぁ、心霊写真とかにありがちな、白いもやもやみたいな奴か?

あんな感じでは…なかったなぁ。

もっとリアルな…まるで生きているかのような影だった。

「えっと…それは、見間違いじゃないんだよね?本当に…いたの?」

天音が、不気味そうに尋ねた。

…そうだな。

見間違いだったら良かったんだけど…。

「俺だけじゃない。イレースも令月も、すぐりも見たんだぞ」

俺とイレースだけならともかく。

この中で、誰よりも夜目が利く元暗殺者組までもが、あの幽霊を目撃したのだ。

勘違いではない。

「認めたくはありませんが、確かに黒い影のようなものを目撃しました」

「うん、僕も見た」

「俺も見たよー。気持ち悪かったね」

イレースと令月、すぐりが言った。

俺も含めて四人が…あ、一応シルナも加えておくと、五人の人間が目撃した訳だから。

見間違いでした、では済まないだろう。

さすがにな。

「じゃあ、本当に…。…でも、学院に出てくる幽霊の正体に、心当たりはあるの?」

「…それなんだよ。疑問なのは」

幽霊の姿がもっとはっきり見えていれば、正体を突き止めることが出来たんだろうに。

俺達が見た幽霊は、ただの黒い人影でしかなかった。

シルエットだけじゃ、その正体は分からない。

「学院内で死んだ人間なんていないし…」

「強いて言うなら、『アメノミコト』の襲撃を受けたときに、『アメノミコト』の暗殺者とやり合いましたが」

イレースに言われてから、そういえばそうだったと思い出した。

学院で起きた殺傷事件と言ったら、唯一そのとき…『アメノミコト』の刺客達と戦ったときくらいか…。

じゃあ、『アメノミコト』の暗殺者が化けて出た…とか?

…今更?

『アメノミコト』の襲撃から、結構時間経ってるんだけど。

今更出てきてのか?

随分ラグがあったな。

それとも、何か言いたいことがあって出てきたのか?

しかし。

「それは有り得ないよ」

「何?」

令月が、きっぱりとそう言った。