神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「…いいや、羽久。私も行くよ」

静かな声で、シルナはそう言った。

「…無理するなよ」

「無理なんかじゃない。羽久一人に押し付ける方が、余程無理だよ」

…そうか。

まぁ、逆の立場だったら…俺も同じことを思ってただろうからな。

お互い様、って奴だな。

「…分かった。じゃあ、二人で行こう」

「うん、頑張ろう」

一か八か。上手く行くかは分からないが。

今までも、こういう危険な綱渡りは何度も経験してきたからな。

その度に、何とか乗り越えてきたのだ。

今回もその精神で、何とか乗り越えようじゃないか。

俺達なら、きっと大丈夫だ。

自分にそう言い聞かせ、いざ菜箸の橋…ならぬ。

菜橋に足を踏み出した…そのとき。



「…ケケケッ」

「…は?」

何者かの笑い声が聞こえて、俺とシルナは足を止めた。

…まさか、誰か戻ってきたのか?

俺は思わず、緊張で身体を硬直させたが。

笑い声のした方に目を向けると、そこにいたのは人間ではなかった。

「…お前…」

…猫、だ。

赤と濃いピンクの、しましま模様をした。

なんともけばけばしい、気味の悪い猫。

あれはもしかして…『不思議の国のアリス』に出てくる…。

「…チェシャ猫…」

…と、呼ばれるキャラクターなのでは?