神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…無事に、片手鍋によじ登ることに成功した。

ふぅ…。何とか登れたな。

たかが片手鍋なのに、ここから落っこちたら致命傷だからな。

くれぐれも、気をつけなければ。

「羽久っ…!大丈夫!?」

「大丈夫だ…!」

取っ手にしがみついたまま、蓋の方に向かう。

よし、辿り着いた…。

しかし、あれだな。

人間視点で見たら、今の俺はきっと、鍋にしがみついてうごうごしている、謎の生き物になってるんだろうな。

例えテントウムシサイズだろうが、生きる為に必死なんだよ。これでも。

「あとは…この蓋に、穴を開ける…!」

俺は杖を握り締め、鍋の蓋の、少しでも薄そうな場所を狙って。

炎魔法で、鍋の蓋を焼いた。

懇親の魔力を込めて、炎魔法を発動したつもりだが。

多分人間視点だと、マッチの火より小さく見えるんだろうな。

これでも頑張ってるんだよ。

鍋の蓋に穴を開ける…程度のこと、普段なら眠っていても出来ると言っても過言ではない。

そんな俺が、鍋の蓋に穴を開けるのに、これほど苦労するとは。

我ながら何やってんだろう、と泣けてくる。

…しかし。

「よしっ、開いた…!」

ようやく、鍋の蓋の一部が溶け。

拳大くらいの穴が開いた。

今の俺のサイズの拳だから、こんな小さな穴、人間視点で見れば、針でつついたほどの大きさなんだろうな。

それでも、今の俺にとっては充分だ。

「どう、羽久。見える…?」

「ちょっと待てよ。今…」

鍋の蓋に身体を押し付けて、穴の中を覗き込んだ。

それまた真っ暗で、非常に見えにくいが…。

炎魔法を懐中電灯代わりに、鍋の中を覗く。

「…」

…ここまで苦労して、鍋の中を探しに来たっていうのに。

…鍋の中、何もないんだけど。

現実は非情だなぁ…。こんなに苦労したんだから…招待状とは言わずとも。

せめて、招待状の在処に繋がるヒントとかさ…入ってたら嬉しかったんだが。

鍋の中は、当然のように空っぽだった。

そりゃ、食器棚の中に収めた鍋に、何か中身が入ってたらおかしいわな。

何も入ってないのが当たり前なんだろうが…でも、これほど苦労してノーヒントだったら。

さすがの俺も、ちょっと落ち込むぞ。

「…はぁ…」

苦労して鍋によじ登った俺って、一体。

がっかりしたけれど、しかし意気消沈している暇はなかった。