神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

俺達がしがみついたフォークとスプーンを、メイドが掴んで持ち上げたとき。

正直、俺もシルナも、生きた心地がしなかった。

万が一メイドに気づかれたら、一貫の終わりだ。

今の俺達、デコピン一発で即死だからな。

デコピンどころか、大抵何をされても致命傷だよ。

スプーンにしがみついたまま運ばれる間は、いつ振り落とされると肝が冷えたが。

俺達はメイドに気づかれることなく、無事に食器棚に辿り着いた。

…死ぬかと思った。

今日だけで、もう何回死ぬかと思ったことか。

かろうじて、まだ生き延びてるよ。

「シルナ、シルナ無事か?」

「は、はぁ…。危なかった…」

無事のようだな。

どうやら、上手く食器棚に運んでもらえたらしい。

メイドが全ての食器を片付け終わるまで、俺達は用心して、食器の影に隠れておいた。

食器を片付け終わったメイドが、その場を立ち去って初めて。

俺達は食器の影から出て、ようやく食器棚の中を動き回った。

「広いな…」

食器棚の中って、こんなに広かったのか。

しかも、所狭しと食器が並べられていて、歩きにくいことこの上ない。

うっかり足を滑らせて、フォークの上にでも転んでみろ。

危うく死にかねんぞ。

命の危険が多過ぎる。

なんて物騒な『不思議の国のアリス』だ…。

いかにも、童話シリーズの魔法道具らしくなってきたな。

他の五人は大丈夫だろうか?

俺達でさえ、もう幾度となく命の危険に晒されたのだ。

恐らく他の五人も、似たような目に遭ってるんだろう。

簡単にやられるような奴らではないが、しかし心配せずにはいられなかった。

…まぁ、俺も、他人の心配をしているほど余裕はないんだが。

「あ、見て。羽久」

「あ?」

「鍋がある」

シルナは、食器棚にしまわれた片手鍋を指差した。

…あの鍋の中に、招待状が隠されているかもしれないんだよな。

可能性があるなら、出来れば鍋の中も探してみたい。

だが、それにはいくつものハードルがある。

俺達は片手鍋の近くまでやって来て、小高い丘のような鍋を見上げた。

「どうやってよじ登れば良いんだ…?」

「…うーん…」

たかが片手鍋でも、俺達にとっては氷山も同然だ。

簡単には登れない。

「鍋の持ち手に掴まれば、登れないかな…?」

…それは、俺も思ったけども。

口にするほど簡単なことではない。

「まず、どうやって持ち手に掴まるんだ?」

「う…。それは…」

鍋の持ち手を掴むのも、簡単ではない。

何やってんだろうな、俺達。マジで。

考えたら泣きたくなるから、考えるのやめよう。

「どっちかがどっちかを肩車したら、何とか届かないかな?」

と、シルナは提案した。

肩車か…。確かに、そうすればギリギリ届かなくもない…か?

やってみる価値はありそうだ。

…しかし。

「持ち手に手が届いたとしても…鍋の蓋は、どうやって開ける?」

ハードルは、それだけではないのだ。

例え鍋の上によじ登れたとしても、あの蓋を開けないことには、鍋の中は見えない。

…前途多難過ぎるな。