神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…で、そんなことはどうでも良いんだよ。

今の状況分かってるか?

菓子食ってる場合じゃねーから。

「おい、シルナ」

「もぐもぐ。もごもご。はぐはぐ」

こいつはもう駄目かもしれない。

「シルナ!いい加減正気に戻れ。菓子食いに来た訳じゃないんだぞ!」

「もぐもぐ。もう死んでも良いかもしれない…!」

やっぱり置いていこうかな。マジで。

ここで朽ち果てるなら、シルナも本望だろう。

だが、俺はこんなところでシルナと心中なんて御免だ。

最後の最後まで、悪あがきさせてもらうぞ。

「いい加減にしろ、この馬鹿。招待状を探しに来たんだぞ!」

「もぐ?」

「もぐじゃねぇよ!」

「へぶっ!」

俺はシルナの後頭部を引っ叩いて、正気に戻らせた。

「いたたたた…。羽久ったら、乱暴…」

お前がへらへらしてんのが悪い。

「菓子食ってないで、真面目に招待状を探せ」

「分かったよぅ…」

本当に分かってんだろうな?

こうしている間にも、制限時間は近付いてるんだからな。

寄り道してる暇はないぞ。

「コック達に見つからないように、慎重に進むぞ」

「うん、分かった…」

テーブルの上にゴミがある、と追い払われたら一巻の終わりだ。

俺とシルナは皿の影に隠れながら、慎重に進んだ。

皿と皿の隙間に招待状が落ちていないものかと、逐一確認していったが。

残念ながら、それらしきものは見つからない。

「ないな…」

「うーん…。テーブルの上にはないのかな…?」

…そうかもしれないな。

じゃあ、やっぱり…探すべきは、食器棚の中か?

「食器棚は…あそこにあるが…」

テーブルをの上から、食器棚が見える。

しかし、あの食器棚に登るのは、テーブルに登るより大変だ。

食器棚には、よじ登れそうな場所がない。

どうやって、あそこに飛び移れば良いのか…。

…すると。

「…!あれ…」

俺は、一人のメイドが目についた。

彼女は、テーブルの端に積み上げられた食器を、順番に食器棚に戻しているところだった。

…これは、思わぬ僥倖なのでは?
 
あの食器にしがみつけば、彼女が食器棚に連れて行ってくれそうだ。

食器にしがみついて運んでもらうなんて、色んな意味で危険が満載だ。

しかし、他に方法はなさそうだった。

…やるしかないか。どっちみち。

「…シルナ、あの食器にしがみついて、食器棚に運んでもらおう」

「えぇぇ…!!大丈夫なの…!?」

「さぁ。でも、やるしかないだろ」

このままテーブルの上に残っていても、招待状は見つからないし。

それに、登ったは良いが、ここから降りるのも大変だぞ。

さっきのテーブルクロスの糸に捕まって、果たして無事に降りられるかどうか。

いずれにしても危険が伴うなら、招待状が隠されているかもしれない食器棚を目指すべきだろう。

迷っている暇はない。

「俺はあのスプーンにしがみつくから。シルナは…」

「うぅ…。怖いけど、私もフォークに掴まって、運んでもらうよ」

そうか。

お互い、振り落とされなければ良いな。

覚悟を決めて、俺達は食器に擬態し、運んでもらうのを待った。