出来るだけ味を感じないように、一気にごくんと飲み干した。

ブルーハワイ味を期待したが、そんなことはなかった。

かといって、苦い訳でも酸っぱい訳でも、甘い訳でもなく。

毒々しい色をしている癖に、水のように無味無臭だった。

マーライオンの如く噴き出さなかったのは良かったが、色が色だけに、全く味がないと逆に不気味。

「…」

…飲んだけど。

それで?これを飲んだことで、何が変わるんだ?

「…飲んでおいて何だけど、これ、毒じゃないよな…?」

「原作の『不思議の国のアリス』に、毒なんて出てきたっけ…?」

「そんなの分かんないだろ。白雪姫が巨大りんごを投げつけてくる時代なんだぞ?」

『不思議の国のアリス』に毒が出てきても、何もおかしいことなんて…。

…と、思った瞬間。

「うわっ!?」

「えっ…!?」

俺とシルナの身体が、再び青い光に包まれた。

途端に、俺の手が、足が、みるみるうちに縮み始めた。

悲鳴をあげる暇もなかった。

ほんの数秒の間で、俺もシルナも、テントウムシほどのサイズに縮んでしまった。

そのとき、俺は思い出した。

そういえば、原作の『不思議の国のアリス』でも、そうだった。

「drink me」の小瓶を嚥下したら、縮んだり、逆に大きくなったりするんだっけ。

そして今、俺達も…原作再現とばかりに、テントウムシサイズに縮んでしまった。

さっきまで見下ろしていたはずのテーブルが、そびえ立つ巨塔に見える。

唯一の救いは、着ていた服も一緒に縮んでしまったことか。

服はそのままに、身体だけ縮んでしまったら。

招待状よりも先に、まず人としての尊厳を守る為に、衣服を探さなければならないところだった。

「う…嘘だろ…?」

俺は、思わず絶望の声を出したが。

「うわー…。分身魔法で、シルナ昆虫シリーズを作ったときの視点だ…!」

シルナは、意外と大丈夫そうだった。

成程。シルナは普段から、分身魔法で昆虫を作り出しては、学院の敷地内のパトロールに当てているからな。

昆虫視点で物を見るのに慣れてるから、あまり驚かないのかもしれない。

こんなところで、分身魔法が役に立つとはな。

昆虫目線に慣れてない俺にとっては、脅威でしかない。

こえーよ。何だこれ。

…そのとき、俺ははたと思いついた。

「まさか…この状態で招待状を探せってことか…?」 

「…そうかも…」

それが、この…トランプの6…「ティーセットの世界」に課せられた試練なのか。

…悪夢でしかないぞ。

まだスタートラインに立ったばかりなのに、既に目の前が真っ暗になる思いだった。