「…」

俺とシルナと天音は、三人で顔を見合わせた。

床に落っこちたロールケーキを、令月がしゃがみ込んで、拾って摘み食いしていた。

しかし、そんなことにさえ気づかないシルナ。

「…ホウキ…今、ホウキって言った?」

「もぐもぐ。甘い」

「いや、ちょ、令月君。落っこちたの食べないで。冷蔵庫にまだあるから。食べたいならそっち食べて」

床に落ちていようが、気にせずもぐもぐしている令月。

つーか、まだ冷蔵庫にあるのかよ。このロールケーキ。

買い過ぎだろ。

いや、ロールケーキのことなんて今はどうでも良い。

それよりも、今令月が言ったことって…。

「令月、ホウキって…何のことだよ?」

「ホウキはホウキだよ」

「ホウキって、俺達が知ってるアレのことか?掃除するときに使う…」

暗殺者が使ってる俗称、とかじゃないよな?

本当に、俺達の知ってるホウキのこと…だよな?

「他にどのホウキがあるの?」

「…いや…」

…ほ、本当に…ホウキ?

「ホウキと戦ってるって…どういう意味だよ…?」

掃除してるってこと?掃除が終わらないから手伝ってくれ、とか?

しかし。

「そのままの意味だよ。ホウキが襲ってきたから、そのホウキと戦った」

「…!?」

「早く来て。園芸部の部長を守らなきゃいけないし、援軍が来たら不味い」

「…援軍…!?」

ホウキが何の援軍を呼ぶんだ?

…モップとか?

悪いけど、説明されても事情がさっぱり分からない。

何言ってるんだろう、令月の奴…。

「は、話はよく分からないけど…」

と、シルナが言った。

「とにかく、見てみないことには分からないや。令月君、すぐり君のところに案内してくれる?」

「うん、良いよ」 

そうだな。行ってみないと分からない。

逆に言えば、行ってみれば分かるってことだ。

「一応、皆も来てくれる?」

シルナは、俺達教師陣に向かって言った。

…分かってるよ。仕方ないだろ。
 
「あぁ、分かった」

「…仕方ありませんね」

俺だって、ホウキが何やら、という話の真偽が気になるし。

園芸部の部長…ツキナとかいう子だっけ?

あの子もいるのなら、助けに行かねばなるまい。

…しかし、ホウキを捕獲したって…。全く意味が分からないのだが…。

一体、どういう状況なんだ…?