…音がした方に目をやると。

窓がガラガラと開いて、しゅたっ、と窓枠に何者かが足をかけた。

…まぁ、何者かなんて聞かなくても分かるが。 

鍵のかかった窓を開け、無断で侵入してくる人間は、このイーニシュフェルト魔導学院に二人しかいない。

そして侵入者は、案の定、その二人のうちの一人だった。

「令月…お前…」

「来たよ」

来たよ、じゃないんだよ。

来るなよ。

来ても良いけど、ちゃんとドアから入ってこい。窓から入ってくるな。

何度も言ってるのに、ちっとも聞く耳を持たない。

そして、もう下校時刻は過ぎてるからな。

来るなら、下校時刻になる前に来い。

何でここにいるんだ。学生寮に帰れ。

全く、他の生徒に示しがつかん。

「あのな、お前ら。いい加減夜間外出を…。…って言うかすぐりの奴は何処だよ?」

大抵、令月とすぐりはセットで行動しているのだが。

侵入してきたのは、令月の一人だけだ。

お前、相棒は何処だ?一人で来たのか。

珍しいことがあるもんだ。

…最初の頃は、一緒にいるときの方が珍しかったんだけどな。

今の令月とすぐりが、あれほど仲良くなっているなんて…。あのときの二人に話しても、信じなかったろうな。

それが今や、二人が唯一無二の愛棒になって、大変嬉しいことだが…。

…感慨に耽っている場合ではなかった。

「うん。そのことについて話そうと思って、急いで来たんだよ」

「?何?」

「『八千歳』は今、ホウキと戦ってる」

「…」

「ホウキを捕獲したんだ。人手が必要だから、ちょっと来てくれる?」

…俺も、シルナも、天音も、ポカーン顔。

シルナなんて、あまりに驚き過ぎて、チョコロールケーキの皿を落っことしていた。

あーあ、勿体ない…。

明日の朝ご飯は、別のものになりそうだな。

令月の心を読んで、瞬時に状況を把握したナジュと。

そして、大抵のことでは驚かないイレースだけが平然としていた。

全く、この二人の肝の太さと来たら。見習わせてもらいたいものだ。 

…令月の奴、今何て言った?

すぐりが、ホウキと戦って…ホウキを捕獲してる?

…ホウキ?

俺の…聞き間違いじゃない、よな?