すると。

「誰か!ねぇ誰か乗ってきて!ポムポム!ヨーグルトポムポム食べよう!」

一人放置されているシルナが、うるさく喚いていた。

まだ言ってたのか…。

もう良いから、一人で食えば?いちいち誰かを待ってないで。

一人で食べるのは嫌なのかもしれない。寂しんぼかよ。

と、思っていると。

そんなシルナを、神様が憐れんでくれたのか。

「失礼しますよ」

ガチャッ、と学院長室の扉が開いた。

そこには、本日の書類の束を手にした、イーニシュフェルト魔導学院唯一の女性教師。 

その名前は…もう言うまでもないな?

「あっ!イレースちゃん!あのね、今ヨーグルトポ、」

「この書類、明日までにお願いしますね」

「…せめて、最後まで話を聞いてよ…」

残念だったな。

イレース相手に、慈悲を期待するのが間違いだ。

それどころか。

イレースは、トランプで遊んでいるナジュと天音を、キッと睨んだ。

蛇に睨まれた蛙のように、天音はビクッとしていたが。

ナジュの方は素知らぬ顔。

「あなた方は何をやってるんです?…随分暇そうじゃないですか」

イレースの手にかかれば、生徒も教師も関係ないな。

「暇じゃありませんよ。ババ抜きに忙しいですから。僕達は今、超忙しくトランプで遊んでるんです。何ならイレースさんより忙しいと、」

「…丸焼きになりたいんですか?」

「…って、さっき天音さんが言ってました」

「えぇっ!?」

イレースに睨まれた途端、天音に責任を押し付けやがった。

これには天音もびっくり。

なんかこのやり取りも、常習化してきたな…。

天音にとっては、迷惑なとばっちりである。

やれやれ、全く仲良しな奴らだよ…。

「はい!はいはいはい!皆ヨーグルトポムポム食べよう!今切ってあげるから。折角教師皆揃ったんだから、皆で食べよー!」

ヨーグルトポムポムを諦めきれないシルナが、力強くそう宣言。

イレースは白い目で見ていたが、そんなことは当然、意に介さない。

「ふっふっふー。これはね、皆お馴染みの『ヘンゼルとグレーテル』から買ってきた、珍しいおか、あれ!?」

…あれ?

何故か、シルナはきょとんとしたまま固まってしまった。

「…どうしたんだよ?」

「お、おかしい…!ほら、見てこれ!」

シルナは、皿に乗せていたヨーグルトポムポムを見せてきた。

綺麗なホールケーキだったはずなのに、いつの間にか、何者かが一部を切りとって、なくなっていた。

…摘み食い疑惑、発生。