一番嬉しそうなのは、勿論この男。

「はいっ!ヨーグルトポムポム食べる人、この指とーまれ!」

放課後を迎えるなり、今日もハイテンションである。

…つーか、ヨーグルトポムポムって何だ?

…プリン?プリンみたいなもの?

ちらりと見てみたら、プリンではなく、普通のケーキみたいに見えた。

ふーん。そんな菓子があるのか…。

またあれか。『ヘンゼルとグレーテル』とかいう菓子屋で買ってきたんだろうか。

つーか、『ヘンゼルとグレーテル』も童話の名前じゃん。

駄目だな。最近、童話と名のつくものに敏感になっている。

仕方ないだろ?立て続けに、あんな目に遭わされたら。

全く、嫌な思い出だよ。

『白雪姫と七人の小人』なんか、特にな。

もう、二度とあんな目には遭いたくない…。

「はいっ!ちょっと!皆!誰か!この指とーまれって!誰かとまって!」

誰一人乗ってこないので、一人で焦っているシルナである。

勝手に食えよ。

「ヨーグルトポムポムだそうですよ、天音さん。どうします?」

「今、別にお腹空いてないからな…。…はい、ナジュ君の番」

「じゃあこれ…。おっと、外れですね。次は天音さんの番ですよ」

シルナを横目に、二人でトランプ遊びに興じるナジュと天音である。

どうやら、ババ抜きをしているようだが…。

…教師が放課後に、ババ抜きやって遊んでる暇あるのか?

いや、放課後にヨーグルトポムポムに夢中になってる学院長がいる学校だから。

もう、今更って感じだよ。

真面目なのはイレースだけだな。

「失礼ですね、羽久さん。僕も真面目ですよ。こんなに真面目にババ抜きやってる教師は、ルーデュニア聖王国広しと言えども僕くらい…」

「あーはいはいそうですねー」

真面目な教師はな、勝手に人の心を読んだりしないんだよ。

…そういえば。

「ナジュ相手にトランプゲームなんかやっても、何も面白くないだろ」

俺は、天音に向かってそう言った。

だって、ナジュにはご覧のとおり、厄介な読心魔法があるのだ。

カードゲームでもボードゲームでも、相手の心を読めるナジュは負け知らずのはず。

しかし。

「大丈夫。ナジュ君が引くときは、カードを全部シャッフルして、僕もどのカードが分からないようにしてるから」

あぁ、成程。

天音も知らないことなら、いかに読心魔法を使おうとも、無意味だからな。

「そこまでしなくても、たかがトランプゲームくらいで読心魔法を使ったりしませんよ」

と、ナジュ。

そうは言うけど、お前隙あらば人の心読むからな。

説得力ねーよ。

「僕はこんなに誠実だというのに、羽久さんは失礼ですねー」

誠実を名乗るなら、まずはその読心魔法癖をやめることだな。

そうしたら、少しは考えてやるよ。